もじのすけ の文字ブログ

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文字について考えたことをつづっています

文字を見せる人 ~JK補導記事と本の装丁~

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【目次】

 

(冒頭の作品)
Mr. and Mrs. Daniel Otis and Child
Artist:Joseph H. Davis (1811–1865)
Date:1834
Medium:Watercolor, gum arabic, and graphite on off-white wove paper

Dimensions:10 3/4 x 16 5/8 in. (27.3 x 42.2 cm)

Joseph H. Davis | Mr. and Mrs. Daniel Otis and Child | The Met

 

 

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もじのすけです。


今回のテーマは「文字を見せる人」です。

 

人が他人に文字を見せるとき、というのはどんな場合でしょうか。

普通は、書いた人が自分の文章を読んでもらうときですよね。

実は、書いた人以外が「文字を見せる」といえるときがあるのです。

 

今回は例を2つ挙げ、「文字を見せる人」について考えていきます。

 

このテーマを考えるきっかけになったのは、

「JKビジネスの客引きの少女を警察が一斉に補導した」という内容の新聞記事 です。

 

この新聞記事を1つ目の例として検討していきましょう。

 

ちなみに、ご存じない方のために説明しておくと、「JKビジネス」というのは、女子高生(JK)にお客への何らかのサービスをさせて、女子高生のサービスであることを売りにしてお客から料金を取るビジネスです。

公明正大なイメージはなく、グレーのものとクロのものが入り乱れているイメージです。(個人の感想です)

 

 

1 JKビジネスの記事

 

まずは、朝日新聞平成29年4月9日の記事を紹介された、大野木寛氏のこのツイートをごらんください。

 

 

 

 

 

 

どうでしょうか。 

みなさんはこの新聞記事を見てドキッとしませんでしたか?

私は、大野木氏と同じくパッと見、とても混乱し、そして心がザワつきました。

 

 

笑える話を分析するのはヤボですが、今回のテーマのため、あえて私の心の動きを説明していきましょう。

 

【ヤボな説明始まり】

 

「・・・」部分は私の思ったことです。

 

もう一度、新聞記事を見てみましょう。

 

みなさんは最初にどこに目が行きましたか? 

私としては、まずパッと見、記事見出しの『JK店舗』『少女らを一斉補導』が目に入りました。

・・・これは結構大がかりな話だぞ。補導するときは騒ぎになったのかな?

 

そして『華やかな女性の行列』が目に飛び込んできます。

・・・補導で行列か。これは大がかりだ。ん?

ここで間髪を置かず、違和感が発生します。

・・・いくらなんでも女子高生(JK)が花魁(おいらん)になるか?他の人もおかしい。時代が違う。

・・・補導した少女を並ばせて市中引回しはおかしい

 

そして思いました。

・・・なんなんだこの人たちは?

 

 

わき起こる疑問を解決したくなり、視線を散らして見てみると、画像の左の説明文に気がつきます。『浅草を練り歩いた江戸吉原おいらん道中』

・・・なんだ。祭りの写真か

 

 

 

ようやく自分の混乱の内容に気づき、笑えてきます。

ここから交互に見出しと画像を見比べます。

・・・しかし、よくできてるなあ(笑)

・・・それにしても、かなりまぎらわしいぞ(笑)

・・・こんなJK店舗があったら振り切れてるよなあ

・・・そりゃこんな店で補導したら市中引き回しだわなあ

 

 

そして、心がざわつき始めます。

「これを編集した人、ワザとでしょ?」

 

 

 

 

要約すると、この話はこういうことでした。 

 

上の記事の見出しは「JK店舗の客引き少女らを一斉補導」です。

JKビジネスに女子高生が巻き込まれるのを防ぐため、警視庁が、JKビジネスの店のために客引きをしていた18歳以下の少女たちを一斉に補導した、というお話でした。

 

これに対し、下の画像は「江戸吉原おいらん道中」というお祭りの様子を撮影したものでした。ちなみに、お祭りの説明はこちらです。

浅草観音うら一葉桜まつり「江戸吉原おいらん道中」/東京の観光公式サイトGO TOKYO

 

上の記事と下の画像は全く別の話。それなのに、見出しの文字のすぐ下に画像があるので、同じ話のように見えました。

 

要約するとこうなりました。

せっかくの笑える話も、分析して説明すると残念な感じになってしまいますね。

 

【ヤボな説明はここまで】

 

 

 

実はこの2つの記事。別の地域ではこのように報じられていたようです。

大野木寛氏に返信された、まりすさんのツイートをご覧ください。

 

どうでしょうか。

これなら別の話だということがはっきりとわかりますよね。

記事と記事の間に『あでやか 花魁道中』という見出しも入っていますし。

この並び方では、むしろ少女補導の見出しと花魁の画像を結びつける方が難しいでしょう。

 

そして、先ほどの心のざわつきが収まらなくなってきます。

「さっきの記事を編集した人、絶対ワザとでしょ?」

 

 

 

 

ここで私が言いたかったのは、

『JK少女補導』と『おいらん道中』は全く別の記事なのに、文字と画像の見せ方によっては関連しているように見える

という事実です。

 

この現象は、紙の新聞には限られません。電子版の新聞であっても、同じようなレイアウトにするのであれば、同様の混乱が起きることでしょう。ただ、実際には電子版の新聞は、記事単位のレイアウトが多いので、記事同士の関係で混乱を起こす見せ方は少ないでしょう。

 

例えば、JK少女補導の朝日新聞デジタル版はこちらです。記事単位です。(リンク切れになりました)

www.asahi.com

 

江戸吉原おいらん道中の朝日新聞デジタル版はこちらです。こちらも記事単位です。(リンク切れになりました)

www.asahi.com

 

この2つのデジタル版は記事ごとに独立していて、「話がつながっているかも」という誤解の生じようがありません。

 

最初で示したまぎらわしい関連づけは、紙の新聞紙ならではといってよいでしょう。 

 

 

この例で目立ったのは、「JK店舗の客引き少女らを一斉補導」という「文字」を、あえて花魁道中の画像の近くに置くという、「見せ方」です。

そして、よく考えてみれば、そのようにして「文字を見せた人」は、新聞の編集者です。

 

この新聞の例は集者の文字の見せ方に力量を感じた例でした。

 

 

  

 

 

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Candlestand and Book
Artist:Ryūryūkyo Shinsai (Japanese, active ca. 1799–1823)
Period:Edo period (1615–1868)
Date:probably 1813
Culture:Japan
Medium:Polychrome woodblock print (surimono); ink and color on paper
Dimensions:5 3/8 x 7 1/4 in. (13.7 x 18.4 cm)
Classification:Prints

Ryūryūkyo Shinsai | Candlestand and Book | Japan | Edo period (1615–1868) | The Met

 

 

 

 

 

 

 

2 「文字に美はありや。」の装丁

 

もう1つ例を挙げたいと思います。

今年1月に出版された、「文字に美はありや。」(伊集院静著 文芸春秋社 2018年)という本です。

 

この本とても面白いですよ!

普段あまりテーマにならない古今東西の文字の話題について、伊集院静氏が作家としての切り口から縦横無尽に論じています。似たような本は見たことがありません。書家にとって(そして実は活字を使うわれわれ普通の日本人にとっても)決して外すことができない王羲之(おうぎし)の文字から、ビートたけしの手書き文字、はてはロボットの文字までもが話題に上がっています。

 

ですが私が今回お話ししたいのは、この本の内容ではありません。

本の装丁です。

装丁というのは、大ざっぱに言うと「本のデザイン」です。

 

 

この「文字に美はありや。」の装丁はネット上でどんな風に紹介されているのでしょうか。みなさんと一緒に見ていきたいと思います。

 

まずは、Amazon(アマゾン)です。

 

(Amazonでの「文字に美はありや。」)

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(リンクはこちら)

https://www.amazon.co.jp/%E6%96%87%E5%AD%97%E3%81%AB%E7%BE%8E%E3%81%AF%E3%81%82%E3%82%8A%E3%82%84%E3%80%82-%E4%BC%8A%E9%9B%86%E9%99%A2-%E9%9D%99/dp/4163907777

 

 

みなさんの目には、この本の表紙画像がどのように映りましたか。

私はアマゾンでこの「文字に美はありや。」を買いました。買うときにこの本の表紙画像を見た私の感想はこんな感じでした。

「結構どぎつい紫色で平べったい感じがあるな。前から欲しかった本だから私は買うけど、もう少し違うデザインにすればいいのに。『美』を論じる本にしてはけっこうダサいな。」

 

エラそうですみません。ですが、これが私の偽らざる正直な気持ちでした。

 

 

 

次に出版元の文藝春秋社の公式サイトを見てみましょう。

 

サイトはこちら。 

books.bunshun.jp

 

サイト内の表紙画像はこちらです。

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この表紙画像は、アマゾンのものと全く同じでした。 

ですので「ダサい」という私の感想は変わりません。

 

 

 

 

今度は、ネット上の書店hontoのサイトのサムネイル画像を見てみましょう。こちらです。 

honto.jp

右上のサムネイル画像(表紙の下部分が映っているもの)を見てください。そして下の文藝春秋社のサムネイル画像と比べてみてください。ちょっと違いますよね。

(再掲 文藝春秋社)

books.bunshun.jp

1つ目のhontoのサムネイル画像は、字がぼやけている気がしますし、紫の色合いも青みが強くなっている気がします。

 

このように、文藝春秋社とhontoのサムネイル画像には違いがあるようですね。

 

 

今度はサイト内の本の表紙画像も見比べてみましょう。

 

hontoのサイト内での本の表紙画像はこちらです。

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あれっ?今までとちょっと違いませんか?

みなさんはどうですか。違いがわかりますか。 

 

hontoでは、文字がぼやけたり、紫色の地に和紙のようなザラつきがありますよね。

 

並べてみますね。

 

 左:文藝春秋社    右:honto

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違いがわかりますか。 

右は文字のぼやけや紫の地にザラつき感があります。

電子媒体の画面上で文字をくっきりさせるためには左の画像がよいのかもしれません。

ですが、左の画像は右の画像のように地の素材感は出てきません。

 

・・・結構違うなあ。左はくっきりして見やすいけど、本の感じがしないなあ。違和感があるなあ。文字は見やすいけどこの本はちょっと装丁がイマイチだなあ。右は素材感はあるけどぼやけているなあ。撮り方もあるだろうけど、やはり装丁に問題があるのかなあ。

左右の表紙画像に対して、そんな感想をもちました。

 

実際にこの本の実物が手元に届くと、この装丁の印象に対する違和感はマックスになりました。

 

素人(もじのすけ)がスマホで実物の写真を撮ってみました。

いくつかの写真をご紹介しましょう。

 

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映り込みもありますし、暗いし、素人がスマホで撮ったので十分ではありません。ですが、この本の装丁の雰囲気は出ています。

 

色、光沢、文字のフォント、大きさ、そして文字の配置。どれも美しい。ザラっとしつつもしっかりとした紙の手触りも抜群です。つい指でスリスリしたくなります。

 

美しい装丁です。全然ダサくないです。

 

装丁の城井文平氏、印刷所の凸版印刷さん、製本所の大口製本さん、DTPのトリロジカさん、すみませんでした。

 

どんなに少なく見積もっても、装丁家の力量を感じました。 

 

この本の装丁が実は美しいという事実は、本を買って実際に手に取るまでわかりませんでした。ネットの画像を見ただけではイマイチのように見えました。

 

いったいどうしてこんなことになったのでしょうか。

 

これは、文字(本)の見せ方の違いが原因だと思います。

 

アマゾンや文芸春秋社は、印刷前の表紙のデータを画像にしているのでしょう。これに対し、私は印刷後の本を撮影して画像にしています。hontoも私と同じく印刷後の本を撮影しているのでしょう。

 

本を売るための文字(本)の見せ方。どっちがよいのでしょうか。素人の私には細かいことはわかりません。

本音を言わせてもらえば、文字がぼやけずくっきり見える上に、本の装丁の質感が出ているものがいいです。両方のいいとこ取りです。

 

3種類の表紙画像を並べてみます。 

 

  ①文藝春秋社     ②honto

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       ③実物の接写

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①②③のバランスを取ってほしい。それが私の願いです。

 

「文字に美はありや。」の装丁の本当の良さは、手に取ってみないとわかりません。実物の装丁の美しさは、書店に行って手に取れば一目(一触)瞭然です。

逆に言えば、本を売る側は、書店に行かない人にも、手に取ってみたかのような質感を画像で伝えることができれば、かなりのアピールになることでしょう。

 

 

業界的には諸事情があるのかもしれませんが、質の高い装丁の本をネットで画像で販売する場合には、本の装丁の立体的、色覚的、視覚的、触感的な意味での質感と雰囲気を出してもらえたらいいな、と思います。

 

書店のサイトでは、そこまでするのが難しい、ということならば、せめて、出版社にはがんばっていただきたい。

本を出版するまでに多大な精力を注いでいるわけですから、自社HPでは、平べったい表紙画像データだけでなく、本の装丁の質感が伝わる画像もあったらいいなあ、と思います。

 

私は今まで「ネット上の本の画像なんてどれも変わらないし、気にしない。」と思っていました。ですが、その考えは今回で変わりました。

 

今度からは(1)なるべく文字や本の様子が一番よくわかるリアル書店で買おう、(2)リアル書店で買わないときでも、なるべく文字や本の質感が伝わる画像を出しているサイトから買おう、と思いました。

 

このようにして、私の中ではポリシーが決まりました。

「本を買うのは、なるべく愛情をもって文字(本)を見せているところから」

 

 

 

 

 

 

3 文字を見せる人たち

 

長文になってしまいました。 

 

今回は、(1)JKビジネス少女補導の新聞記事と(2)「文字に美はありや。」の装丁、という2つの例をもとに、「文字を見せる人」について考えてきました。

 

「文字を見せる人」は作者・著者だけではありません。 

 

みなさんが文字を目にする時までに作者・著者以外のたくさんの人が関わり、その力量を発揮していることがわかってきました。

(1)JKビジネス少女補導の新聞記事なら、編集者

(2)「文字に美はありや。」の装丁では、装丁家。そして編集者や、印刷者、製本者、DTPなどに関わる人達。そして商品として紹介する、出版者、書店。

です。

 

その他にもまだまだいます。例えば、技術の基礎部分としてはフォントデザイナー、紙を作る人、デバイスの画面を開発する人など。有体物の新聞や本をみなさんのお手元に届ける人。

 

本当にたくさんの人達がいます。

 

私自身、今まで気にしたことがなく、今回のブログ記事を書くにあたって初めて気づいた役割の人が多いです。

 

有体物の文字の印刷物にはたくさんの「文字を見せる人」が関わっている。この事実を知った私は、手書きのものだけでなく、印刷物にこれまで以上の愛着を感じました。

 

 

おつかれさまでした。

 

 

 

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A group of men looking at a newspaper stand
Artist:Alfredo Zalce (Mexican, Pátzcuaro, Michoacán 1908–2003 Morelia)
Date:1941
Medium:Woodcut
Dimensions:Sheet: 7 in. × 4 5/8 in. (17.8 × 11.7 cm)
Image: 3 3/8 × 2 3/8 in. (8.5 × 6 cm)
Classification:Prints

Alfredo Zalce | A group of men looking at a newspaper stand | The Met

 

 

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 上杉謙信の手書き文字から作った

 「けんしんフォント」無償公開中

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 http://mojinosuke.hatenablog.com/entry/2017/04/06/130000

 

  

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