もじのすけ の文字ブログ

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文字について考えたことをつづっています

文字を書くことは歴史をなぞること(1) ~漢字・木簡・紙・墨・筆~

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【目次】

 

こんにちは。もじのすけです。

 

前回の記事で、

次回はゆるい話題にする

と言っていたのに、

今回も濃い目の話題に

なってしまいました。

先にお詫びします。 

 

以前、

手書き文字の時間性・身体性

の回で

手書き文字を書くことは、

「身体を伴って

 その言葉をじっくり味わう」

という意味があると

お話ししました。

 

1 日本の文字の歴史をたどる

今回から、何回かに分けて

手書き文字を書くことによって、

私たちは無意識的に

歴史をなぞっている

というお話をしたいと思います。

 

私たちが普段使う文字は、

主に漢字、カタカナ、ひらがな、

の3つなので、

素人ながらに調べて

まずは日本での

漢字の歴史を手始めに

かなり大雑把に文字の歴史を

たどってみようと思います。

 

 

2 日本で漢字、紙、墨、木簡、筆が本格化した時代

 

 2-1 漢字が使われだした時代は7世紀頃

諸説ありますが、

日本で漢字が文章全体で

使われるようになったのが、

7世紀ころだそうです。

Q0005
日本語を漢字で書き表すようになったのはいつごろですか?
A
埼玉県の稲荷山(いなりやま)古墳出土の鉄剣、と聞けば、受験勉強を思い出す方も多いことでしょう。日本史の教科書には必ず出てくるこの鉄剣は、5世紀ごろのものだと考えられていますが、これには115字の漢字から成る文章が刻まれていて、その中には固有名詞も含まれています。
(中略)
では、そのような段階を越えて、日本語の文章そのものを漢字を使って書き表すようになったのは、いつごろのことなのでしょうか?
漢文(中国語)と日本語の文章とは語順が違いますから、漢字ばかりで書き表された文章でも、日本語の語順にしたがって書かれていれば、日本語を表記したものだと考えることができます。この観点から検討すると、日本語の文章全体が漢字で書き表されたといえる例は、7世紀ごろから現れるようです。

日本語を漢字で書き表すようになったのはいつごろですか?|漢字文化資料館

 大修館書店HPより)

 

 

 2-2 紙・墨が使われだした時代は7世紀頃

日本で紙や墨が

使われ始めたのは

いつなのでしょうか。

 

日本史では610年から、

と習いました。 

日本書紀には

高句麗から渡来した僧の曇徴

(どんちょう)が、

610年に用いていたことが

記されています。

 

ただ、該当箇所の記載をよく読むと、

曇徴は610年に用いたのであって

紙・墨を最初に作ったのではない、

紙・墨はそれ以前に作られていた、

と言われているようです。

  1. ^ 寿岳文章, 『日本の紙』日本歴史叢書 新装版, 吉川弘文館, (1967, 1996), pp. 1-21.

 (曇徴 - Wikipedia

 

ウィキペディアの 

該当箇所の記載を読んだ限りですが

私もその説に賛成です。

 

 

 

 2-3 日本最古級の現存木簡も7世紀頃

 

それでは、

日本で木簡が使われ始めたのは、

いつなのでしょうか。

 

百済などからの渡来人を通じた

もののようで、

早ければ五世紀代に、

遅くとも六世紀後半のようです。

現存している日本最古級の木簡は、

640年代ころからのようです。

「黎明期の日本古代木簡」市大樹先生 国立歴史民俗博物館研究報告 第 194 集(2015 年 3 月)65ページ 論文要旨①②参照

 

ちなみに

日本最古の木簡がどれかは

特定が難しいようです。

 

話がそれますが、

市大樹先生の上記論文の

66ページの「はじめに」は

興味深いものでした。

 

日本で文字が広まった時期を

読み解く視点が

素人の私でも分かるくらいに

すっきりと書かれています。

1ページに

まとめられているので

おすすめです。

 

気になる方はこちらへどうぞ。

市大樹先生の論文(PDF)の

ダウンロードページ

rekihaku.repo.nii.ac.jp

 

 

 

 

 

 2-5 日本最古の現存の筆は8世紀

 

それでは、筆はどうでしょうか。

 

現存している日本最古の筆は、

8世紀のもののようです。

天平筆」と

奈良の大仏の開眼の際に用いられた

いわれている天平宝物筆」が

正倉院に納められているそうです。

できることなら見てみたいです。

 

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3 大宝律令(701年)に表れた紙・墨・筆

 

701年、まだ都が奈良の平城京に移る前の

藤原京において、

大宝律令という

本格的な国の基本を定めるルールが

制定されました。

大宝律令は、

大宝律(今の刑法)と

大宝令(今の行政法、訴訟法等)に

分かれています。

 

その大宝令の中に、

中務省という中央省庁があり、

その一機関として

図書寮(ずしょりょう)

があったようです。

(大宝令新解第1巻 窪美昌保 南陽堂(大正15年)39、45ページ)

国立国会図書館デジタルコレクション - 大宝令新解

図書寮 - Wikipedia

これが現代の図書館の

始まりみたいです。

 

図書寮では、

書籍の収蔵管理、

国史の撰修、紙、筆、墨などの製作、

宮中の仏事などを扱ったようです。

そこに、

写書手20人、

装潢手4人、

造紙手4人、

造筆手10人、

造墨手4人と書いてあるようです。

(大宝令新解第1巻 窪美昌保 南陽堂(大正15年)46ページ)

国立国会図書館デジタルコレクション - 大宝令新解

 

要するに、職人さんたちですよね。

ちなみに、

これらの人には、さらに、

助手みたいな人がいたようです。

 

このように701年に

国立図書館として

公式な陣容が整ったので、

おそらく600年代=7世紀に

書を写す、装丁する、紙を造る、

筆を造る、墨を造る、

という技術が本格化したことが

わかります。

 

そうすると

日本では、7世紀ころ、

本格的に

漢字、紙、墨、木簡、筆が

使われ始めたといえそうです。

 

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4 7世紀の漢字は国の基盤となった

 

7世紀は、

大化の改新(646年?)が

起こった時代です。

都は難波と大津の

約15年の例外を除き、

ほぼ飛鳥と藤原京という

奈良の都でした。

白村江の戦い壬申の乱など

国内外の情勢が変動し、

天智天皇天武天皇

活躍した時代です。

天皇中心の国家の体制が

確立していく過程で、

漢字も定着していったのでしょう。

 

そして

その流れから、8世紀になり、

国家体制の整備をするために、

漢字を使って、

大宝律令(701年)

養老律令(718年)

を制定したのでしょう。

 

また、同じく8世紀になり、

国づくりの物語を定め、

歴史的意義づけをするために

漢字を使って、

古事記(712年)

日本書紀(720年)

を編纂したのでしょう。

 

その意味では、

7世紀の

漢字(文字)の流通は

国を支える

社会的・精神的基盤

になっていた。

と言えるのではないでしょうか。

 

 

5 大学寮の思い出

 

大学寮の思い出といっても

奈良時代の話ですよ。

 

図書寮の説明を読んでいて、

そんなころの

青年たちを描いた小説を

読んだことがあったなあと

思い出しました。

調べてみたら、

図書寮ではなく

大学寮(官僚養成機関)の役人の

お話でした。

 

澤田瞳子「孤鷹の天」(徳間文庫)

www.amazon.co.jp 

 

 

大学寮といえば、最近

「はし きよみち」さんという

ペルシャ人と思われる人が

765年に勤務していたことが

木簡から判明したみたいです。

破斯清通 - Wikipedia

破斯(はし)は「ペルシャ」という

意味のようです。

 

偶然、

NHKラジオで

解説している番組を聞きました。

彼は特別枠の係長クラスの人で、

宿直担当として木簡に名前が

挙がっていたみたいです。

 

はるばる日本まで来て

宿直までしていたなんて

おつかれさまだなあ、

と親近感が湧いてきますね。

 

 

話がそれました。

 

 

今回は、

7世紀の漢字の流通が

8世紀以後の

日本の国の基盤だ

というお話をしました。

 

漢字の歴史は、

詳しく調べると

もっと根拠の発見や厳密な特定が

できるのかもしれません。

ですが、素人としては、

これくらいにしよう

と思います。

 

文字の歴史をたどる

今回のお話の続きは、

カタカナとひらがなの話をします。

その後に、

手書き文字を書くことによって、

私たちは無意識的に

歴史をなぞっている

というお話をしたいと思います。 

 

 

 

それが次回になるかどうかは

気分で決めたいと思います。

 

おつかれさまでした。

 

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