もじのすけ の文字ブログ

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文字について考えたことをつづっています

文字と絵の境目(7) ~徳川歴代将軍の花押のルーツを求めてみた~

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【目次】

 

(冒頭の作品)

Helmet
Date:mid-14th century
Culture:Japanese
Medium:Iron, lacquer, leather, silk, gilt copper
Dimensions:H. of bowl 6 1/16 in. (15.4 cm); L. of bowl 11 1/16 in. (28.1 cm); W. of bowl 10 5/16 in. (26.2 cm); W. of neck defense 24 1/4 in. (61.6 cm); overall L. with neck defense 17 1/2 in. (45.4 cm)
Classification:Helmets

Helmet | Japanese | The Met

 

 

 

 

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もじのすけです。

 

1 花押の流れ 

 

今回は花押の歴史の流れについて見ていきたいと思います。

そして、花押が「文字」なのか「絵」なのか、について考えてみましょう。

 

花押は比較的マイナーな分野ですが、花押の流れを見ていくと、日本の歴史を感じることができます。大げさではありませんので、ぜひ見ていってください。

 

 

今回は徳川歴代将軍の花押を見ていきましょう。

 

花押の画像の出典は、

書の日本史〈第9巻〉古文書入門,花押・印章総覧,総索引

平凡社 初版 昭和51年)P213~P214です。   

 

花押をどんどん並べますので、

考えるより感じろ

でいきましょう!

スクロールしてザッと見るのもいいですね!

 

そして、それから考えてみましょう。

 

 

 

 

2 徳川歴代将軍の花押

 

 

それでは見てみましょう!

〇番号は第〇代将軍という意味です。

初代将軍の徳川家康からドンドン行きますよ。

 

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   ①徳川家康

さすがは徳川家康!?

重厚感と安定感がありますね。

 

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   ②徳川秀忠(一)

お父さんと似ていますね。

 

 

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   ②徳川秀忠(二)

少しスマートになったかも。

 

 

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   ③徳川家光

お父さんに似ていますね。

 

 

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   ④徳川家綱

シンプルになってきましたよ。

 

 

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   ⑤徳川綱吉

ややたて長で、太い線ですね。

マジメ感がありますね。

 

 

引用元の本には掲載無し

花押工房様のHPにはあります。徳川歴代将軍の花押

   ⑥徳川家宣

引用元の本に徳川家宣の花押が無い理由は

不明です。

 

 

引用元の本には掲載無し

花押工房様のHPにはあります。徳川歴代将軍の花押

   ⑦徳川家継

家継は4歳で将軍に就任し、

8歳で亡くなっています。花押も

あまり使われなかったことでしょう。

 

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   ⑧徳川吉宗

四角四面になってきましたよ。

いかにもマジメでガンコそう。

線も少なく質素倹約しそうですね。

享保の改革のイメージどおり。

 

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   ⑨徳川家重

四角いですが、右側に遊びが。

 

 

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   ⑩徳川家治

あっさりとしてきましたね。

線も軽やかです。

 

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   ⑪徳川家斉

と思ったら、また太くなりました。

 

 

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   ⑫徳川家慶

どっしり、シンプルになっています。

 

 

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   ⑬徳川家定

遊びがない、くそマジメな感じです。

ご本人は奇行が目立った将軍なので、

この花押は自分で選んでいないかも。

ひょっとしたら花押すら書かずに

ハンコ(花押印)にしていたかも。

「西郷どん」では

ピース又吉直樹さんが演じていますね。

徳川家定|登場人物|NHK大河ドラマ『西郷どん』

 

 

引用元の本には掲載無し

花押工房様のHPにもありません。徳川歴代将軍の花押

   ⑭徳川家茂

 

 

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   ⑮徳川慶喜

これは完全に流れ無視ですねw

花押からすると、

アクが強いのか、それとも

マジメで幕府改革を意識したのか。

どちらでしょうね。

 

 

 

 

2 徳川歴代将軍の花押の元の文字

 

はい、おつかれさまでした。

ザーッと見ていただけたでしょうか。

 

説明が気になってザッと見られなかった人は、並べるのでもう一度スクロールして見てみてください。

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徳川家康

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徳川秀忠

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徳川秀忠

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徳川家光

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徳川家綱

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徳川綱吉

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徳川吉宗

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徳川家重

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徳川家治

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徳川家斉

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徳川家慶

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徳川家定

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徳川慶喜

 

 

 

だいたい「正」の字みたいな形が続いて、最後の徳川慶喜だけが丸っこい字になっていますね。これは「慶」だと思われます(北見花芽(id:KihiminHamame)様のご指摘に賛成です。ありがとうございます。) 。徳川慶喜だけは例外ですが、徳川歴代将軍は徳川家康の花押を基準にしているようです。

この徳川家康の花押は「明朝体」と言われているようです。

 

徳川慶喜以外の徳川歴代将軍の花押は字でしょうか絵でしょうか?

 

私は「絵(マーク)」だと思います。

 

この花押が「正」ならば文字といえるかもしれません。ですが、

この明朝体の花押の元の文字は「正」ではないのです。

 

 

徳川家康の花押の歴史をもう少し見てみましょう。

 

 

 

3 徳川家康の花押のルーツ

 

実は、この記事で最初に挙げた徳川家康の花押は、晩年期の花押なのです。

徳川家康の花押の移り変わりを示しましょう。左から右に見てください。

 

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左からだんだん四角っぽい形になります。一番右のものが徳川歴代将軍のところで挙げた花押です。

 

徳川歴代将軍の花押のルーツは徳川家康の花押でした。

それならば、徳川家康の花押はどこからきたのでしょうか。

 

考えてみてください。

 

 

 

 

 

 

答えはここからです。

 

 

 

徳川家康の昔の名前は松平元康。

松平元康の「元」は、今川義元の「元」。

 

今川義元の花押を見てみましょう。

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 今川義元1 

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  今川義元

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    今川義元

書の日本史〈第9巻〉古文書入門,花押・印章総覧,総索引

平凡社 初版 昭和51年)P250より   

 

 

もうおわかりでしょう!

 

 

 

徳川家康の初期の花押と並べますよ。

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  今川義元     徳川家康

 

そっくり

 

 

 

徳川家康そして徳川歴代将軍の

花押のルーツは、どうやら

今川義元の花押のようです!

 

 

 

そして、この花押の元の文字は

「義」です。

 

 

なぜ「義」だと言えるのか。

 

興味を持たれた方はこちらの記事をご覧下さい。さらに今川義元の花押のルーツをたどっていくと分かりますよ。遡ると、鎌倉期のあの人と室町期のあの人に行き当たります。

mojinosuke.hatenablog.com

 

 

4 花押は文字か?絵か?

 

みなさん、思い出してください。このブログは文字ブログです。文字について考えています。そしてこの記事のタイトルは「文字と絵の境目」です。

そこで、花押が「文字」なのか「絵」なのか、について考えてみましょう。

 

徳川家康の初期の花押と今川義元の後期の花押は「文字」でしょうか。それとも「絵」でしょうか。

 

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  今川義元     徳川家康

 

私は「義」のくずし字と見るべきだと思います。「義」と読めますし。ですから

これらは「文字」!

 

みなさんはどう思われますか?「義」とは読めないよ、という人もおられることでしょう。でもくずし字だって読めないものが多いですよね。それでもくずし字は一応「文字」ですよね。

このように、くずし字とマークの境目はかなりあいまいです。

 

私の考えだと花押は、

(1)くずれすぎてもはや「文字」ではなく「絵」(マーク)になってしまったもの、と、

(2)くずれ方が小さく「文字」といえるもの、の

つに分かれると思っています。

 

 

 

 

ということで、私の今のところの結論は

花押には「文字」と「絵」(マーク)がある。

です。

 

今回の記事は、

mojinosuke.hatenablog.com

の続きでした。

前の記事を書いたときに、まさか続きが1年後になるとは自分でも思いませんでした! 

 

 

5 おまけ

 

おまけです。

水戸黄門で有名な徳川光圀の花押を見てください。

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徳川光圀は左のようなマジメな明朝体の花押と、右のような、はっちゃけた花押を使っていました。

 

水戸黄門は若い頃は気が荒かったと言われていますし、右の花押を見ても、基本的な性格は、風変わりだったのではないでしょうか。

 

 

 

それでは今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

 

 

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Case (Inrō) with Design of Tools of Various Trades (Carpenter, Farmer, Merchant)
Period:Edo period (1615–1868)
Date:early 19th century
Culture:Japan
Medium:Lacquer, red-brown ground, nashiji, gold, red and silver hiramakie, raden; Interior: nashiji and fundame
Dimensions:3 1/8 x 2 x 15/16 in. (7.9 x 5.1 x 2.4 cm)
Classification:Inrō

Case (Inrō) with Design of Tools of Various Trades (Carpenter, Farmer, Merchant) | Japan | Edo period (1615–1868) | The Met

 

 

 

 

 

 

 

 

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