もじのすけ の文字ブログ

もじのすけ の文字ブログ

文字について考えたことをつづっています

文字から伝わるニュアンス

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【モクジ】

 

(ボウトウノサクヒン)

Isola Bella in Lago Maggiore
Artist:Sanford Robinson Gifford (1823–1880)
でいと:1871
みでぃあむ:Oil on canvas
でぃめんしょんず:20 1/4 x 36in. (51.4 x 91.4cm)
くらしふぃけーしょん:Paintings

Sanford Robinson Gifford | Isola Bella in Lago Maggiore | The Met

 

 

 

 

コンニチハ。モジノスケデス。

 

イワカン ノ アル デダシ デ スミマセン。

 

読み飛ばさずに「ん?いつもとちがうぞ。」と思われた方、ありがとうございます。そして、失礼しました。

 

今日のお題は、「文字から伝わるニュアンスの幅」です。

日本語の文字である「ひらがな」と「カタカナ」や、漢字、アルファベットを例に挙げてお話ししたいと思います。

 

特に意味はないですが、景気づけに、けんしんフォントの「ひらがな」と「カタカナ」で表現してみましょう。

 

 

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うーん。いつ見ても上杉謙信の文字は美しいですね。

 

みなさんはどちらがしっくりきますか。気分や好みに左右されそうですね。上杉謙信の「ひらがな」はもちろんのことですが、「カタカナ」にもなかなかの味があります。

 

フォントのいいところは、好きな人の字で自分の好きな言葉や文章を作れる点にあります。このブログの中でも、時々使っていこうと思います。

 

景気づけのつもりがちょっと脱線してしまいました。

それでは、「文字から伝わるニュアンス」の話に入っていきましょう

 

 

1 ニュートンライプニッツ

 

このお題を考えるきっかけになったのは、次の本です。

「脳を創る読書」(酒井邦嘉 著 実業之日本社  2011)

www.j-n.co.jp

著者の酒井先生はこんなご経歴です。

www.j-n.co.jp

酒井邦嘉(サカイクニヨシ)

1964年東京生まれ。

東京大学理学部物理学科卒業。同大大学院理学系研究科博士課程修了(理学博士)後、同大医学部第一生理学教室助手、ハーバード大学医学部リサーチフェロー、マサチューセッツ工科大学客員研究員を経て、1997年より東京大学大学院総合文化研究科助教授・准教授。2012年より同教授。同大大学院理学系研究科物理学専攻教授兼任。2014年より日本学術会議連携会員。2002年第56回毎日出版文化賞、2005年第19回塚原仲晃記念賞受賞。専門は、言語脳科学および脳機能イメージング。趣味は、ヴァイオリンとフルートなど。

主な著書に『言語の脳科学』『科学者という仕事』(以上、中公新書)、『脳の言語地図』『ことばの冒険』『こころの冒険』『脳の冒険』(以上、明治書院)、『脳を創る読書』(実業之日本社)、『芸術を創る脳』(編者、東京大学出版会)などがある。(2015年4月17日現在)

 

酒井先生の視点はとても刺激的で、私にとって新しい発想のタネになっています。

この本は7年前の2011年に出版されていますが、内容は古くありません。「電子書籍」と「紙の本」の比較など、たくさんの気づきをもたらす良著です。

内容に関する話題は別の記事で検討するとして、今回は96ページと97ページに出てきたキーワードを採り上げたいと思います。

それがニュートン」「ライプニッツです。

 

ニュートン」、「ライプニッツ」と言えば物理を学ぶときに必ず出てくる偉人の名前ですよね。

 

アイザック・ニュートン - Wikipedia

サー・アイザック・ニュートン
Sir Isaac Newton
GodfreyKneller-IsaacNewton-1689.jpg

           (Wikipediaより)

 

 

ゴットフリート・ライプニッツ - Wikipedia

ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ
Gottfried Wilhelm Leibniz

           (Wikipediaより)

 

さすが、偉大な業績を上げた科学者だけあって、威厳のあるたたずまいです。いかにも厳しそうです。もし私たちが大学生だったとしたら、この人たちの講義に出席するためには、相当な覚悟をしておく必要がありそうです。出席したらしたで、難しい質問のときに、当てられそうです。

 

それではこの偉大な科学者たちの名前を「ひらがな」で表現するとどうなるでしょうか。見てみましょう。

 

 

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    にゅーとん

 

   らいぷにっつ

 

どうですか? 急に親近感がわいてきませんか?

いかめしい風貌も「ギャグのための前振り」とさえ思えてきます。そこまでとは思わなくても、おやじギャグの1つや2つは言いそうな雰囲気に見えてきました。

「にゅーとん」と「らいぷにっつ」の講義なら、私でも気軽に立ち寄れそうな気がします。

 

実は、酒井先生の「脳を創る読書」のP96、P97で出てきた単語は、「にゅーとん」「らいぷにっつ」だったのです。なお、これらの単語が出てきた文脈が気になった方は本を買ってお読みください。

 

 

2 ウルトラマン80 と もじのすけ

 

その他にも例を挙げたいと思います。

私が子どもの頃のウルトラマンと言えば、ウルトラマンタロウウルトラマンレオ。そして少し後に出てきた「ウルトラマン80」(ウルトラマンエイティ)です。

ウルトラマン80 - Wikipedia

ウルトラマン80』(ウルトラマンエイティ)は、1980年(昭和55年)4月2日から1981年(昭和56年)3月25日までTBS系列で毎週水曜19:00 - 19:30(JST)に全50話が放送されたTBS・円谷プロダクション製作の特撮テレビ番組、また、その劇中に登場するヒーローの名。

1980年の作品ということで、80と名づけられたのだと思われます。

 

円谷プロの公式サイトの説明はこちら。

円谷プロの公式サイトより) 

 


私が親に買ってもらった児童向けのウルトラマンの本では、「ウルトラマン80」はこのようにふりがな表記されていました。

    

「うるとらまんえいてい」

 

これだと浮世絵に出てきそうな雰囲気です。江戸期の絵師や噺家のような雰囲気もあります。

明らかに「うるとらまんえいてい」は「ウルトラマン80」のイメージとは違っていて、子ども心に「ダサい」と感じていました。大人になった今なら、「出版する立場からすれば子どもが読めないと仕方ないし」と理解はできるのですが・・・。(でも今度は、「ウルトラマンでありながら、地球の暦の1つにすぎないグレゴリオ暦に名前を依存させるなんて」と思ってしまいますが。)

 

文字によって印象が変わる例を他にも挙げてみましょう。

 

 

「もじのすけ」だって印象が変わります。

 

モジノスケ

もじのすけ

文字之助

MOJINOSUKE

 

「モジノスケ」は、電化製品のイメージがわきます。「文字之助」は、からくり人形のイメージでしょうか。「MOJINOSUKE」は無印良品のレトルトパックのスープみたいです。

 

 

 

 

「よろしく」だって違ってきます。

 

よろしく

宜しく

ヨロシク

夜露四苦

YOROSHIKU

 

どうでしょうか。それぞれ印象が違いませんか。「夜露四苦」をみると漢字は表音文字ではなく、表意文字だなあと実感します。

 

 

3 違和感の正体

 

私が「にゅーとん」「らいぷにっつ」に親近感をいだき、「うるとらまんえいてい」をダサいと感じてしまったのは、なぜでしょうか。

もう少し一般化すると、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットで印象が違うのはどうしてでしょうか。

 

 3-1 漢字

まず、漢字は印象が変わるのは無理もないと思います。漢字は表意文字であり、一文字一文字にニュアンスがありますから。

夜露四苦は、「夜の露」というはかなさを感じさせますし、「四苦」は「四苦八苦」という苦しみの一部であることを感じさせます。単なる音の「よろしく」とは違いそうです。

 

 

 3-2 アルファベット

アルファベットも印象が変わる理由は思いつきます。アルファベットは日本語の表記として一般に使われた文字ではなく、英語などの外国語の文字として使われています。「MOJINOSUKE」と書くと、自然に日本以外のテイストが入ってくることになります。

 

 

 3-3 ひらがなとカタカナ

にわかに理由が思いつかないのが、ひらがなとカタカナから伝わるニュアンスの違いです。

ニュートン」「ライプニッツ」「ウルトラマン80」

「にゅーとん」「らいぷにっつ」「うるとらまんえいてい」

どれも日本語の表記として一般に使われた文字であり、表音文字であることも共通です。ニュアンスの違いは、いったいどこから来るのでしょうか。

 

あれこれ考えたのですが、理由は2つありそうです。

 

1つは、「文字の形」です。

 

ひらがなの場合、文字の線は一画でも揺らいだり何度も曲線が出てきます。

単純な直線は無いといってもいいくらい少ないです。そして読む人にやわらかい印象を与えます。

「にゅーとん」「らいぷにっつ」の印象の変化はここからくるでしょう。

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   にゅーとん      らいぷにっつ

 

他方、カタカナの場合は、一画の中の揺らぎは少なく直線が多めになります。論理的という印象や、無駄を排した堅い印象を与えます。

GodfreyKneller-IsaacNewton-1689.jpg 

   ニュートン      ライプニッツ

 

このように「ひらがな」と「カタカナ」の文字の形自体から、読む人に与える印象が変わってきます。

 

もう1つの理由は、私たちの中にある「通常の用法という先入観」です。

 

普段私たちが文章を読むときは、「ここは『ひらがな』、ここは『カタカナ』」と通常の用法を予測しながら読んでいます。この予測が外れると急に違和感をいだき、特別な意味があるのではないかと疑います。 

ソウデショウ?

その他にも「ヒラガナ」と「かたかな」と書くと違和感が出てきませんか?

 

GodfreyKneller-IsaacNewton-1689.jpg 

   にゅーとん    らいぷにっつ

この2つから受ける違和感は、外国人の名前にアルファベットでも「カタカナ」でもなく、「ひらがな」を使うところからも来るのだと思います。

日本人の名前(たとえば「松岡修造」)のところにカタカナ(「マツオカシュウゾウ」)を使ってみましょう。急に「ハーフの人かな?」とか思えてきます。

 

「文字の形」「通常の用法という先入観」

この2つの理由から、「ひらがな」と「カタカナ」のニュアンスの違いが出てくるように思います。

 

 

4 次回の予告

 

今回は書体(フォント)のデザインの話ではなく、文字の種類(「ひらがな」「カタカナ」「漢字」「アルファベット」)から来るニュアンスの違いのお話でした。

 

特に「ひらがな」も「カタカナ」のように、「同じ日本語の表音文字なのに、種類が違うだけで与える印象が変わる」という事実は、私には不思議な現象のように思えて仕方がありません。

 

「ひらがな」や「カタカナ」の印象を変化させる、私たちの「通常の用法という先入観」については、次回も検討したいと思います。

私たちがいかに先入観を持って文字を読んでいるか、というお話です。

 

キョウ ハ コノヘン ニ シテオキマショウ。

オツカレサマデシタ。

 

 

 

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Terracotta lekanis (dish) with lid
Period:Classical
Date:5th century B.C.
Culture:Greek, Attic
Medium:Terracotta
Dimensions:width 7 1/4in. (18.5cm)
Classification:Vases

Terracotta lekanis (dish) with lid | Greek, Attic | Classical | The Met

 

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 上杉謙信の手書き文字から作った

 「けんしんフォント」無償公開中

  【ダウンロードはこちら】

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 http://mojinosuke.hatenablog.com/entry/2017/04/06/130000

 

  

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