【目次】
(冒頭の作品)
Evening Glow in a Mountain Village and Calligraphy
Artist:Ike Taiga (Japanese, 1723–1776)
Calligrapher:Rokunyo (Japanese, 1737–1801)
Period:Edo period (1615–1868)
Date:late 18th–early 19th century
Culture:Japan
Medium:Album leaves mounted as hanging scrolls; ink on paper
Dimensions:Image (each): 9 × 14 5/8 in. (22.9 × 37.1 cm)
Overall with mounting (each): 39 1/4 × 21 1/2 in. (99.7 × 54.6 cm)
もじのすけです。
1 はじめに
おカタい記事が続きましたので、今回は軽めに読める記事として、なぞってみたシリーズの記事にしたいと思います。
ある文書の画像を出します。その書き手が誰なのかを当ててください。
答えは歴史上の有名人です。
なぞってから答えを知ると、「あの人らしい文字だな」と納得するでしょうか、それとも意外に思うでしょうか。みなさんが持っている有名人のイメージと筆跡は一致するのか違うのか。
「なぞる時間がないよ」という方は見るだけでもどうぞ。
ですが、時間と気力のある方は、答えがわかった後でも良いので、ぜひなぞってみてください。
その有名人の性格がダイレクトに伝わってきますよ!
ちなみに、これまでの名前を伏せた形の「なぞってみた」記事はこちらです。有名人の手書き文字のオンパレードです。サムネイルで気になったものがあればぜひ寄り道して下さいね。
2 クイズのやり方
なぞってみたシリーズは、【クイズ編】と【性格読み取り編】の2つの記事に分かれています。【クイズ編】の後に【性格読み取り編】が来ますが、記事が連続するとは限りません。
また、【クイズ編】だけの有名人、【性格読み取り編】だけの有名人という場合もあります。
プリントアウトが面倒という方や、「全部なぞるのはちょっと・・・」という方は、スマホなどの画面で、文章の一部をなぞってみてもいろいろとわかるかもしれません。
もうなぞるしかないですね! (ムリヤリ)
3 文字なぞり遊びのおさらい
問題に入る前に、毎度のことですが、文字なぞり遊びのおさらいをしておきますね。
段取りは以下のとおり。
1 有名人の公開された手書き文字を紙にコピーする。
2 紙上の手書き文字をなぞる。
3 なぞってその人の性格を感じる。
以上終わり。あっさりするほど簡単です。
4 文字なぞり遊びの注意点のおさらい
続いて、権利関係で知っておくべきポイントは以下のとおり。
公開された手書き文字とそれを載せている媒体(出版物、HPなど)が、適法に公開されたものかどうかに注意してください。適法に公開された手書き文字であれば、それが誰の手書き文字であっても、紙にコピー(複製)して、自分でなぞって楽しむことができます。その限りでは、著作権法上適法です(私的使用のための複製 著作権法30条)。
この結論だけは知っておいてください。
5 この書を書いた有名人は誰?
5-1 問題
さあ、長らくお待たせしました。
いよいよ問題に入りましょう。
この書を書いたのは誰でしょうか。
(出典の引用は本文でのちほど記載)
左は難しいので、出だしの歌に注目しましょう。
拡大します。出だしの歌です。
タイトルは伏せてあります。タイトルを検索すると一気に答えが出てしまいますので。
本当のことをいえば、拡大画像左下の名前や、歌の言葉で検索してしまえば答えは出てしまいます。でも、そんなヤボなことは言わないで、そのままスクロールしてください。
どうでしょうか。
けっこうクセのある筆跡ですね。
今回の歌は結構有名なので、わかる人にはもうわかってしまったかも。
5-2 ヒント1
文字から読み取れる情報をもとにヒントを。
「身ハたとひ武蔵の野辺に
朽ぬとも留置まし大和魂
十月念五日 二十一回猛士」
【釈文】
「身はたとえ武蔵の野辺に朽ちぬとも
留め置かまし大和魂
十月二十五日 二十一回猛士」
【もじのすけ勝手訳。誤訳御免】
「私の身はたとえ武蔵の野辺に朽ちたとしても
大和魂を留め置きたい。
十月二十五日 二十一回猛士」
どうでしょうか。
わかった方はおられますか。
5-3 ヒント2
テンポよくいきましょう。
次のヒントです。
タイトルは「留魂録」です。
「留魂録」
「身は朽ちても大和魂を留め置きたい」
大和魂を残しておきたいと書いています。
文書全体も魂を留める書物。
この文を書いた人はよほどの気構えだと思います。
5-4 ヒント3
釈文です。
釈文には「安政六年」と書いてありますね。
安政六年は1858年。幕末です。この年は有名な「安政の大獄」が起きたときです。「武蔵の野辺に身が朽ち」と歌ったのですから、この人は「武蔵」の地つまり江戸で処刑される運命にありました。
安政の大獄で死刑となり、死を目前にして、誰かに「死んでも大和魂を留め置く」という気構えを伝えるような、強烈な個性をもった人物。
さあ誰でしょうか。
5-5 最終ヒント
最終ヒントです。
「二十一回猛士」は書き手が自ら名乗っていたペンネーム(?)です。
「二十一回猛士」の「二十一回」とは、ある2文字の苗字の線を崩したものだと言われています。1つは横の線を縦の線にしても構いません。
考え方としては2パターンあります。どちらも答えの苗字は同じです。
パターン1
1文字目は「十と一と口」
2文字目は「二(二本のうち一つは縦線だと思ってください)と口」
パターン2
1文字目は「二(二本のうち一つは縦線だと思ってください)と一と口」
2文字目は「十と口」
さあ、何という苗字でしょうか。
ちなみに「二十一」は幼少時の「杉」という苗字も分解しています。
「杉」は「木」と「三」に分けられますよね。
木へんはさらに「十」と「八」に分解できます。それらを足すと「十八」。
そして木へんのつくりの「三」をさらに足すと「二十一」 。
残念ながら今回の人物は「杉」という苗字では知られていないので、あまり役に立たないヒントです。
さてこの「二十一回猛士」。幼少時ではなく、大人になってからの苗字はなんでしょうか。
これが最後のヒントでした。
あとは正解を見るのみです。
6 正解
正解は、明治維新の立役者
吉田松陰 でした。
吉田 松陰(よしだ しょういん)は、日本の武士(長州藩士)、思想家、教育者。山鹿流兵学師範。一般的に明治維新の精神的指導者・理論者・倒幕論者として知られる。私塾「松下村塾」で、後の明治維新で重要な働きをする多くの若者に思想的影響を与えた。
吉田松陰は、長州藩(今の山口県)で私塾である松下村塾を開きました。教えた期間は決して長くはないのですが、塾のお弟子さんも有名人ばかりです。
久坂玄瑞、高杉晋作、入江九一、伊藤博文、山県有朋、前原一誠、品川弥二郎などなど。
その主人公は、井上真央さんが演じた久坂美和。
攘夷の理想に燃える狂気をはらんだ人物として伊勢谷友介氏が演じるというのは適切なキャスティングだったと思います。
7 文字なぞりのススメ
なお、今回の問題に使わせていただいた画像はいずれも「書の日本史〈第7巻〉幕末維新 」(今井庄次編)(平凡社 初版 昭和50年)P118、119から、そして釈文は奈良本辰也氏のものから、引用させていただきました。
今回は、普通の書状とは違います。
この留魂録は死を覚悟した吉田松陰が弟子たちに宛てて書いた書状です。吉田松陰としては、弟子たちの中で回してもらい、他人に見せないことを想定していました。
もじのすけとしては、そのような書状で、しかも死期が迫った吉田松陰の実質的な辞世の句をなぞっていいのかどうか、迷いました。
また吉田松陰が攘夷を唱えていたこととの関係で、私が普段記事でご紹介しているメトロポリタン美術館の所蔵品の画像を挿絵にしてよいのかという点も、迷いました。
ですが、安政の大獄当時の吉田松陰の気持ちを直に感じ取ることは、国際交流の進んだ今日こそ意味があると思い、なぞらせていただきました。
(心理的に抵抗感のある方はもちろんなぞらなくてよいと思います。)
吉田松陰の手書き文字は特徴的です。
どこが特徴的か。手書き文字から見える吉田松陰の性格はどうか。留魂録が私たちの目に届くようになった経緯などは【性格読み取り編】その他の記事で検討しましょう。
手書き文字をなぞらせてもらうと、時代、性別を超えて気持ちが伝わってきます。
ある歴史上の人物を採り上げて歴史の事実を慎重にたどる方法だと、その人物の歴史的業績に目を奪われがちです。
さらに積極的にたどると、その人物の性格を特定できるかもしれません。ですが、その人物のその時々の気持ちまではなかなか探求できませんし、解説されていません。ややもすると、歴史上の人物の心の中は、小説家の創作の領域だと思われがちです。
でも考えてみてください。
当たり前ですが、歴史上の人物も私たちと同じ人間です。思い・感情を持って日々を生きていたはずです。
手書き文字はその人のその時の思い・感情を知る第一次的な資料です。
資料は読む人を選びません。コピーなら原本を傷つけません。興味を持った人なら誰でも読んで親しむ資格があります。
読み取る人によって感想やイメージが違ってくるかもしれません。ですが、それはそれでいいじゃないですか。その感想・イメージこそがその人にとっての真実です。
歴史上の人物の感情に触れてみませんか。
今回は「死を覚悟した吉田松陰の心境が感じられる」かもしれませんよ。
なぞらなくても感じ取れますが、なぞると一層感じ取れますよ。
そういうわけで、やっぱり文字なぞりはオススメです。
おつかれさまでした。
Transverse Flute in D-flat
[Hokanji Temple (Yasaka Pagoda), Kyoto, Japan]
Artist:Adolf de Meyer (American (born France), Paris 1868–1946 Los Angeles, California)
Date:1900
Medium:Gelatin silver print
Dimensions:19.4 x 12.9 cm. (7 5/8 x 5 1/16 in.)
Classification:Photographs
上杉謙信の手書き文字から作った
「けんしんフォント」無償公開中
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http://mojinosuke.hatenablog.com/entry/2017/04/06/130000
定期的に読んでいただけると嬉しいです。
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