もじのすけ の文字ブログ

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文字について考えたことをつづっています

文字の化体性(3) ~島田紳助は漫才を文字で解析していた~

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 【目次】

 

 

(冒頭の作品)

Manzai Dancers
Artist:Teisai Hokuba (Japanese, 1771–1844)
Culture:Japan
Medium:Part of an album of woodblock prints (surimono); ink and color on paper
Dimensions:8 7/16 x 5 7/16 in. (21.4 x 13.8 cm)
Classification:Prints

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/54131

 

 

 

 

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もじのすけです。

 

1 もじのすけの仕事と文字

 

もじのすけの仕事は文章を書いたり読んだり。

人にアドバイスすることもあります。 

今日は、ある人にアドバイスをしました。

 

話したことをそのまま文字にしたとき、話し手としてはそのまま書いてあるのでOK、となりがちです。

ところが、事情を知らない人がそのOKだったはずの文章を読んだときに、誤解することがよくあります。話し手が言いたかったことと違うニュアンスで読み取ってしまうことがあるのです。

 

そこでもじのすけは、「そのままの文章を〇〇の人が見たら〇〇のように誤解するかもしれませんよね。誰に見られても誤解されないように『そのまま文字化+あえてくどい説明』をしましょう。」とアドバイスしました。

 

相手の人は自分の文章が誤解されるかも可能性には気づいていませんでした。

「なるほど」と言って了解してくださいました。

 

・・・ぼかしすぎですね。けれどこれが限界ですので、すみません。

 

文字が紙に化体する場合、発音どおりに化体しても人から誤解して読まれる可能性がある。だから「誤解がおきないように工夫して下さい。」とアドバイスする。

 

こんな風に「文字の化体性」は、もじのすけの仕事にも影響しています。

 

ちなみに「文字の化体性」というのは、文字を物体の上に書くと、その文字で表された情報の存在感が現実化するというお話です。

 

 

2 前回までの記事のおさらい

 

前回と前々回の記事では、「文字の化体性」についてお話ししました。今回もその続きです。カタい話続きですみません。

 

具体例は

孫悟空

 「孫悟空」と書いたカードを手にとって空中でヒラヒラさせる

②富士山

 「富士山」と書いたカードを手にとってより高く持ち上げる

③1万円札

 1万円札をシュレッダーにかけることはできない

④神様

 「神様」と書いたカードをハサミでじょきじょき切ることはできない

⑤人の名前

 「人の名前」を書いたお札に五寸釘を打ち込むことはできない

⑥2位の表彰状

 2位の表彰状をビリビリに破ることはできない

⑦聖書・コーラン

 聖書・コーランを火にくべることはできない

などです。

 

これらの物には特徴があります。

「目に見えないもの」が表現されているという特徴です。

ただし「富士山」のような「目に見えるもの」が表現された物もあります。

 

みなさんは「富士山」という文字が書かれたカードを見れば、富士山をイメージすることができるでしょう。たとえ現実の富士山が視界に入っていないときでも。

 

このように、文字は「目に見えないもの」や「目に見えるもので視界に入っていないもの」も物の上に表すことができます。

 

私はこれを「文字の化体性」と名付けています。

 

 

③1万円札、④神様、⑤人の名前、⑥2位の表彰状、⑦聖書・コーランをダメにする例は、どれも心理的にかなりの抵抗感があると思います。

 

たとえば1万円札をシュレッダーにかけるのは明らかに悪い加工例です。

 

今回までは「文字の化体性」のよい例についてお話しして、その後に良い加工の例をご紹介したいと思います。

 

 

 

3 島田紳助はこのように漫才を解析している

 

「文字の化体性」を使ったよい例として今回ご紹介したい話があります。

島田紳助の漫才の話です。

www.youtube.com

 

よしもとの芸人養成学校NSCの生徒に向けて漫才の話をしているようです。

 

島田紳助はすでに芸能界を引退していますが、当時のトークの力は今見ても色あせていません。

芸人志望の生徒に向けて話しているので、テクニックや心構えなど、他の分野にも応用できる知恵が満載です。

内容の濃い話が1時間半も続いています。

 

その中でも私が特にすごいと思い、ご紹介したい部分があります。

 

6分37秒から11分11秒までの約5分の話です。

そこでは、島田紳助による漫才の解析法が語られています。 

https://youtu.be/O7_f6gRuc1w?t=397

 

島田紳助は、若手に向けてこのように言っています。 

・自分が面白いと思った漫才師がいれば、その漫才師が自分の感覚に一番近い。

その人の漫才をすべて紙に書き出す。

・テレビで何べん見ても一緒なので(違いがわからないので)紙に書く。

・ものすごい時間がかかっても書く。

・それを見ていつも考える「なぜ違うのか」

書くことによっていっぱい違いが出てくる

・例えばオチに入った時の文字数が急に少なくなる

・名人の1分間に入る間は多い。細かい。

・間の数が多いのでうまくなるには時間がかかる

・見ている人は気にしていない。面白いか、面白くないかしか見ていない。

・だったら下手でも面白ければよい。

B&B、ツービート、紳助竜介は同じことをしていた。

・俺らは1分間の中の間の数が少ない。少なければ失敗する率が低い。

・一人の人間が圧倒的にしゃべることによってリズムを作りやすい。

・技術的に言えば下手な漫才。でもお客さんはわからない。

・当時高校生なのにスターだった海原千里万里の漫才をこっそり録音して分析した。

海原千里万里の漫才のネタのオチのパターンが8割一緒。

・プロでも気づかない。お客さんは気づくはずがない。

・パターンばかりだと飽きられる。

・パターン以外のすごくない話を敢えて散りばめるけど、それはパターンの切れを良く見せるため

 

どうでしょうか。

この話のどこがすごいと思いますか。

 

赤字にしていますので明らかですが、私は「これと決めた他人の漫才を全部紙に書き出したところ」がすごいと思いました。

 

とてつもない時間がかかったことでしょう。

いわゆる「間」の時間も、何秒、何秒、と、書き込んだことでしょう。

 

その結果、島田紳助は手間をかけた時間に見合う以上の成果を得ているように思います。

 

 

4 島田紳助の漫才解析のどこがすごいのか

 

漫才を紙に書き出す。

 

いったい、これのどこがすごいのでしょうか。

 

めんどくさいのにやっているからでしょうか?

時間をかけているからでしょうか?

 

そうではないと思います。

 

漫才を紙に書き出せば、「間」やテンポ、オチまでの構成など、目に見えないものを紙に書いて文字にしていることになります(文字の化体性)。

 

紙に書いて文字にすると、1分当たりの文字数からテンポがわかります。

オチまでのストーリーも表せます。

 

 

そして「間」もその長さも表せます。

よく考えてみて下さい。これは不思議なことです。

 

「間」はもともとは無言の時間。何も無いのです。本来は表せないはずです。それが文字を使うと表せる。不思議です。

「ゼロ」「零」と書くことや「無限」と書くことも同じです。

「ゼロ」や「無限」を絵で描けるでしょうか。描けたとしてもその絵を他人に見せてわかってもらえるでしょうか。

 

本来表せないはずのことが表せる。

目に見えないことや細やかなことについて、

文字で「見える」化する。

 

そうすると、今まで気づけなかったことに気づけます。

 

島田紳助の場合は他人の漫才と自分の漫才の違いを

分析することができました。

 

もじのすけなら、自分の話し方を録音して、紙に書いて分析しようと思っています(今の時代なら、音声入力にして文字起こしをしてもいいかもしれません。「間」の長さだけは自分では計るしかなさそうですが。)。また、すごく上手にしゃべる人の話を文字起こししようかとも思っています。

 

きっと「文字起こし」「話の『見える化』」は、工夫しだいでみなさんのお仕事にも役立つことでしょう。

 

 

5 おまけ

 

ちなみに島田紳助は「この話はメモに取らなくていい」と言っています。なのに「漫才を紙に書くこと」は勧めています。

 

一見矛盾しているようですよね。

でも矛盾していません。

 

気になった方は動画で島田紳助の話を最初から最後までよく聞いてください。 

 

 

6 次回の予告

 

さて、これまでの話と今後の話をまとめると、

「目の前に存在しないものや、細やかな物事でも、

(1)文字にするとそれだけでメリットがありますよ(今回と前回)。

(2)その文字が物に化体すると、いろいろ良い加工ができますよ(次回)。」

となります。 次回は(2)の話です。

 

文字にするだけでメリットがある、というのは文字による「見える」化の話です。物に化体しなくても「見える」化はできます。

これは厳密には(1)「見える」化の話であって、(2)の「文字の化体性」のメリットではありません。

 

次回はいよいよ、文字による「見える」化から一歩進み、文字で表された情報が物に化体し、その物を加工する話をします。これこそが(2)「文字の化体性」のメリットの話です。

 

今日はこのあたりにしておきましょう。

おつかれさまでした。

 

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New Year's Decoration of Pine Trees and Manzai Dancers
Artist:Ryūryūkyo Shinsai (Japanese, active ca. 1799–1823)
Period:Edo period (1615–1868)
Date:19th century
Culture:Japan
Medium:Polychrome woodblock print (surimono); ink and color on paper
Dimensions:8 1/4 x 11 3/8 in. (21 x 28.9 cm)
Classification:Print

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/54530

 

 

 

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