【目次】
こんにちは。もじのすけです。
前回の「手書き文字と活字の違い(2)」では、娘(小2)の文字を例に挙げて、手書き文字の情報量の多さについてお話ししました。
今回は、手書き文字の身体性と圧倒的な情報量についてお話ししたいと思います
もう少し具体的にいうと、以下の4つになります。
1 手書き文字の時間性・身体性
手書き文字には、時間の流れ、すなわち「書く人」の「書く」という動作が表れている。
2 「書く」動作の読み取り
手書き文字を読む人は、文章の内容・文体とは別に、書き手の「書く」という身体的な動作を圧倒的な情報量で読み取っている。
3 「書く人」への意識
その結果、手書き文字を読む人は、「書く人」の個性に意識が向く。
4 「書く」動作の重要性
この性質は世間では十分には意識されていないので、書くことは重要だ。
というお話です。
それでは、順にお話ししましょう。
1 手書き文字の時間性・身体性
まず、手書き文字をもとに「書く人」の立場になって考えてみます。
例えば、「活字」の「活」という文字を手で書くだけでも、大変な数の決断が潜んでいると思います。
「活」の字をゆっくり丁寧に書く場合の心の動きを再現してみます。
まず、さんずいの一画目を書きます。
紙のどこから書き始めようか、文章からすると、たくさん書くから紙のなるべく左上から書こう,でも余白もないとね。
どこの高さからどの角度で、どこまで曲げて、どこで止めるか、濃さは?太さは?
よし、まあまあ。
次に、さんずいの二画目を書き始めます。
書き始める場所は、一画目とどれだけ離れたところに書こうか、一画目とつなげとけばよかったか、いや草書体など自分はほぼ書かないし、書けないし、気にしなくていいか。
どこの高さからどの角度で、どこで曲げて、どこで止めるか、一画目とのバランスは?あー、やっちゃった。ちょっと短すぎ。
書き足すか?でも、書き直すのがめんどくさいし、下手になぞって継ぎ目とか変な太さになるとかっこ悪いし、一文字目からずれるとかっこ悪いし、紙を変えたほうが良いかも。1文字目だからまだ間に合う。いや、めんどくさい。このままいくとして、次に行こう。
三画目。
やっぱり、はねるところはびしっとはねたいよね。書き始めから少し長めにしないとはねが目立たないし、ちょっと上の方から書こう。
はねの角度は鋭くないとね。えいっ。そのまま勢いよく左上に。よし。あ、もう少し角度をつけてもよかったかな。いやまずまず。まあ良しとしよう。次にバランスよく舌を書く方が大事だし。
・・・はあ、はあ。もちろん以下省略です。
お付き合いいただき、誠にありがとうございました。
結構デフォルメしましたが、さんずいを書く過程を実況しました。
普通に書いている場合は、この過程のうちのかなりの部分が省略されますが、概ねこんなことを考えながら書いています。
こんな感じで、内容だけでなく、文字を一字書くだけでも大変な決断と葛藤の連続が見られます。
こんな読みにくい文章を書いてまで皆さんにお伝えしたかったのは、次のことです。
手書き文字の時間性
活字と違って、手書き文字には一文字一文字に時間の流れが表れていて、そこに大変な数の決断と気持ちの流れが表れている。
手書き文字の身体性
つまり、手書き文字には、「書く人」の「書く」動作が表れている。
2 手書き文字の読み取り
今度は手書き文字を読む立場で考えてみましょう。
私たちは、紙に書かれた書く人の手書き文字を読むとき、その特徴をどこで読み取っているのでしょうか。
普段気にしませんが、私が気にしているであろう点をあえて挙げてみます。
文字の周辺情報としては以下の要素が考えられます。
文字の大きさ、傾き、とめはね、色、濃さ、筆記具の種類(ペン、ボールペン、油性水性、筆、鉛筆、絵の具など)、太さ、バランス、文字間の幅、行間の幅、紙の色・質・状態 など。
これだけでも、すごい数の要素です。
さらに、外部情報もありそうです。
前回の「手書き文字と活字の違い(2)」の中でお話ししましたが、読む人が、書く人を知っているのであれば、手書き文字を読む時には、既に知っているその人の情報も参考にしているはずです。
それ以外にも、TPO的な情報もありそうです。
例えば、相手が活字の文書にしないで、敢えて手書き文字で書いて渡してきたとか、異性が緊張した表情で自分に手紙を渡してきたとか。
もちろん、書く人の文章の内容・文体の雰囲気も含まれると思います。
どうですか、読み取っている要素がすごく多いと思いませんか?
自分でも、こうやって挙げてみると、とてつもない数の要素を処理しているのだなあと改めて感じました。
読む人は、膨大な要素のうちから特徴的な部分を選び取って、その特徴具合を吟味して、自分の書き方と比べたりしているのだと思います。
そして、なぜそんな形を書くのかについて、「書く人」の「書く」動作を意識しながら「書く人」の気持ちの流れを同時に読み取っているのだと思います。
これは大変な作業だと思います。
手書き文字を読む場合、文章の内容や文体だけでなく、手書き文字からも膨大な情報が入ってきます。
文章の内容に集中したいときは、手書き文字の情報は非常に大きなノイズになります。
だからこそ、自分がしんどいときは、手書き文字を重たく感じて、視界に入れたくなくなるのでしょう。
3 「書く人」を意識
手書き文字では、「書く人」と「読む人」の間で、活字の場合と異次元のレベルで膨大な情報のやり取りが行われます。
この意味をどうとらえるかは、人それぞれでしょう。
私としてはその中で大きな1つの意味を指摘したいと思います。
手書き文字を読む人は、手書き文字の膨大な情報量を取得した結果、手書き文字の特徴から「書く人」の「書く」動作の特徴を読み取り、「書く人」の個性を読み取っている、ということです。
つまり、手書き文字を読む人は、「書く人」を意識しているのです。
この点が活字と大きく異なります。
4 「書く」動作の重要性
今回、手書き文字には情報量が多く、それも圧倒的に多いことをお話ししました。
そして、読む人が活字とは異なるレベルで「書く人」の個性を読み取り、「書く人」を意識していることをお話ししました。
一般論として、手書き文字には温かみ、個性がある、ということはよく知られていると思います。また、手書き文字の情報量が多い、と言われる場合もあります。
手書き文字は、「圧倒的な」情報量のコミュニケーション手段です。ですが、活字と比べて圧倒的な差があることまでは、まだ世間に十分に理解されていません。
このギャップがあることから、私は、「書く」動作、そして手書き文字には、今まで理解されなかった重要性と活用法があると思っています。
このブログでは、手書き文字の重要性と活用法について、少しずつお話ししていこうと思います。
これで、手書き文字と活字の違い(1)~(3)のシリーズを終わります。
長文おつかれさまでございました。
上杉謙信の手書き文字から作った
「けんしんフォント」無償公開中
【ダウンロードはこちら】
↓
http://mojinosuke.hatenablog.com/entry/2017/04/06/130000
定期的に読んでいただけると嬉しいです。
↓↓↓