もじのすけ の文字ブログ

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文字について考えたことをつづっています

文字と音の違い② ~サカナクションのアルクアラウンドのPVから~

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【目次】

 

(冒頭の作品)

Buni
Date:19th century copy of 1500 B.C. object
Geography:Egypt
Culture:Egyptian
Medium:Wood
Dimensions:L. of sound-box: 63.5 cm (25 in.), Width of sound-box: 11.4 (4-1/2 in.), L. of longest string: 10.2 cm (4 ft.)
Classification:Chordophone-Harp

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/501030?sortBy=Relevance&ft=sound&offset=0&rpp=100&pos=5

 

 

 

 

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もじのすけです。

 

前回の記事はこちら。

mojinosuke.hatenablog.com

 

 

今回は前回に引き続き、サカナクションの「アルクアラウンド」という曲のプロモーションビデオ(PV)を手始めに、「文字と音の違い」についてお話ししたいと思います。

 

1 サカナクションアルクアラウンド

  

それではさっそくですが、

サカナクションアルクアラウンドのPVをごらんください。

 

www.youtube.com (Victor Entertainment公式チャンネルより)

 

 

「手で押す」

42秒~1分12秒まで。

ボーカルの山口一郎氏が手で歌詞の文字を押しています。

https://youtu.be/vS6wzjpCvec?t=42s

文字は形を備えているので、山口一郎氏の手で押す対象になっています。

声の音は形がないので、手で押せません。

 

 

「一定の角度で出現」

1分25秒~2分04秒。

歌詞の文字が一定の角度で姿を現します。

https://youtu.be/vS6wzjpCvec?t=1m25s

文字は形を備えているので、部分部分をバラバラの場所に配置していても、一定の角度で文字として出現することができます。

声の音は形がないので、部分部分をバラバラに配置できません。(ひょっとしたら理論上は可能かもしれません)

 

 

「パラパラと表示」

2分13秒~2分28秒。

歌詞の文字がノートのパラパラ漫画のように現れては消えていきます。 

https://youtu.be/vS6wzjpCvec?t=2m13s

文字は形を備えているので、ノートに書いてパラパラとめくり、アニメーションのよう表現することができます。

声の音は形がないので、ノートに書けないし、パラパラとめくることもできません。

 

 

「ノートPCの画面に表示」

2分28秒~2分38秒。

歌詞の文字が人の動きに合わせてノートパソコンの画面上に表示されます。

https://youtu.be/vS6wzjpCvec?t=2m28s

文字は形を備えているので、画面上の人の身体の動きに合わせることができます。

声の音は形がないので、画面上の人の身体の動きに合わせることができません。

 

 

「水槽で沈下」

2分38秒~2分41秒。

歌詞の文字が水槽の中で沈んでいきます。

https://youtu.be/vS6wzjpCvec?t=2m38s

文字は形を備えているので、水槽の中で沈むことができます。

声の音は形がないので、水槽の中で沈むことができません。

 

 

「空中や物に配置」

2分42秒~4分00秒。

歌詞の文字が空中や物の上に置いてあります。

https://youtu.be/vS6wzjpCvec?t=2m42s

文字は形を備えているので、カメラワークで映し出したり消したりできます。

声の音は形を備えていないので、カメラワークでは調整できません。

 

 

いろんなことが起こっていますね。

まとめるとこんな感じでしょうか。

 

歌詞の文字は山口一郎氏の歌ったタイミングに合わせて、現れます(「文字の出現性」)。文字は形を備えているので、手を使って色々と動かしています。

そしてカメラワークによって消えていきます「文字の消失性」)。 

 

山口一郎氏の歌った声は、音となって発生します(「音の出現性」)。

そして自然に消えていきます「音の消失性」)。

 

 

それでは、文字と音の共通点は何でしょうか。

 

文字も声の音も、無かったところから突如出現するという意味で、「出現性」があります。この点は共通でしょう。

 

 

ところが、文字と音は「消え方」が違います。

 

文字はカメラワークによって消えているように見えるだけで、実際には、現場に残り続けています。つまり文字には残存性がある(「文字の残存性」)。

ところが、声の音は長続きせず、自然に消えていきます「音の消失性」)。

 

 つまり、文字には消失性もありますが、形を持っている以上「残存性」があります。

 他方、永遠に続く音はなく「消失性」だけしかありません。

 

つまり、「音は消え、文字は残る」のです。

 

 

2 音は消え、文字は残る

 

他の例をもう少し見てみましょう。

 

 2-1 911テロ事件とテロップ

みなさんはテレビを見たときに、ニュースやバラエティ番組でテロップが入るのを見たことはありませんか。

 

バラエティ番組で、芸能人がツッコミを入れたときに、キーワードのテロップが挿入されたりしますよね。この場合のテロップは強調の意味もありますが、聞き逃し防止の意味もあります。ニュースのテロップは明らかに聞き逃し防止の意味をもっています。テロップがなかったら、発言を少しでも聞き逃したときに全く状況が分からないことでしょう。

 

話は飛びますが、アルカイダによる飛行機がニューヨークのビルに突っ込んだ911のテロの話をします。

私は一人暮らしの家に帰ってラジオをつけ、緊急のニュースで知りました。私の家には当時テレビがなかったのです。「ラジオ」を聞いても同時通訳の人がどこかの国の政府の誰かの「心よりお悔やみ申し上げます。」というコメントを必死に通訳しているだけで、何が起こったのかさっぱり分かりませんでした。

「え?え?なんのこと?誰が何を言っているの?」という時間がずっと続き、ニューヨークで大規模テロがあったと知ったのはかなり時間がたってからでした。

考えてみれば、こんなときに何らかの形でニュースのテロップがあれば、すぐに分かったことでしょう。

ニュースのアナウンサーや通訳の声の音が現れては消えるので(「音の消失性」)、私は、事件のキーワードが分からず、何のことかさっぱり理解できなかったのです。

 

私の知り合いのお坊さんの場合はもっと極端でした。彼は当時、大寺院の中で1年に及ぶ修行中だったそうです。外の世界と完全に隔絶されていたので、数ヶ月後に初めて911のNYテロ事件を知ったそうです。知ったのは、お寺の壺を包む新聞紙を取り替えたときにその新聞紙にNYテロ事件の記事がたまたま載っていたからだそうです。

それでも彼が記事をパッと見てすぐに分かったのは、記事に見出しがあったからでしょうね。

考えてみれば、新聞紙の文字は少なくとも数ヶ月残存していたことになります(「文字の残存性」)。

 

 

 2-2 事件の証拠

他にも、事件の証拠が考えられます。

たとえば悪者グループで犯罪の計画をしたときを考えてみましょう。

悪者グループがその計画の打合せのメモを残していれば、どうなるでしょうか。万が一後で誰かにメモが見つかってしまうと一大事です。悪だくみが一気にバレてしまい、悪者グループは捕まる危険が高まります。これは「文字の残存性」からくる結果でしょう。

 

これに対して、悪者グループの中で打合せのメモがなく、言葉でのやり取りだけがあったとしたらどうでしょうか。

 

計画した人がしゃべってしまわない限り、悪だくみが一気にバレるという危険は小さいでしょう。これは、音が消えるという意味で「音の消失性」からくる結果でしょう。

 

文字には残存性があります。だからこそ、みなさんも、悪だくみに限らず秘密にしておきたいことがあるときは、なるべく文字にしないのがよいでしょう。

 

財務省事務次官が女性記者にセクハラ発言をしたみたいですね。今では録音という技術があるので、悪だくみや秘密にしたいひとは、「文字にしないから大丈夫」とまでは言えませんね。

 

 

 2-3 上杉謙信の「けんしんフォント」

上杉謙信の手書き文字から作った「けんしんフォント」だって、文字の残存性のおかげでできたようなものです。

けんしんフォントの元ネタはこちらです。

http://mojinosuke.hatenablog.com/entry/2017/03/09/173000#6上杉謙信の字をなぞってみたいろは折手本

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上越市史 別編1 上杉氏文書集一 別冊(編集:上越市史編さん委員会 発行:上越市。平成15年)P146 上杉謙信いろは折手本)

(原本は米沢市上杉博物館蔵) 

 

上杉謙信が少年だった上杉景勝のためにお手本の文字を書き、そして上杉家・米沢市上杉博物館が慎重に資料を保存していたからこそ、謙信の時代から500年もたった後に「けんしんフォント」が作れたのです!

これを「文字の残存性」の恩恵と言わずしてどのように説明できるでしょうか!

 

上杉謙信の声は残念ながら残っていません。当たり前ですが、声の音には消失性があります。声の音を保存し、残存性をもたせる手段は、1877年のエジソンの円柱型アナログレコードの発明まで待たないといけませんでした。

 

 

 2-4 結論

 

このように

 

音は消える・・・音の消失性

文字は残る・・・文字の残存性 

という関係が成り立ちます。 

 

 

 

 

 

3 音が消えなかったら? 文字が消えたら?

 

みなさんに、「音の消失性」と「文字の残存性」を実感してもらうには、逆に考えるのもよさそうです。

 

逆に考えてみて下さい。音が消えなかったらどうなるでしょうか。

「あの声・言葉が耳に残る」という表現がありますよね。それでは、想像してみて下さい。あなたが耳にした全ての言葉の声の音が残存したら・・・。

頭がおかしくなりそうです。

 

逆に考えてみて下さい。文字が消えたらどうなるでしょうか。

スマホの画面の文字が全て消えたらどうでしょうか。

学校で教科書の文字が消えたらどうでしょうか。

入学試験の文字が消え始めたらどうでしょうか。

エレベーターのボタンの数字が急に消えたらどうでしょうか。

薬の表示が突然消えたらどうでしょうか。

 

どれもこれも不安になって頭がおかしくなりそうです。

 

こうして考えてみると、「音の消失性」、「文字の残存性」は、私たちにとってとてもありがたいもののように思えます。

 

 

4 音も文字も残ったら?

 

音がいつまでも残ったら頭がおかしくなりそうだという話は、さきほどしましたね。

 

それでは、文字はどうでしょうか。みなさんが見ている文字がいつまでも残っていたら・・・。

 

事実として、文字は残っていますよね。みなさんは視界に文字が入ったら、どうですか?ずっと気になりますか?

 

実際には、そんなに気にならないのではないでしょうか。たとえば、電車に乗っている人が「車内広告の文字がしんどくて頭がおかしくなりそう」となることは、あまりないように思います。

「文字が残っていることがそんなに気にならない。」その理由はあります。

 

今回は思いがけず長くなってしまったので、音が残ると気になるのに、文字が残っていることがそんなに気にならない理由は、次回にお話ししましょう。

 

 

「音は消え、文字は残る」

考えてみると当たり前ではありますが、実は奥が深いです。

 

次回も考えてみましょう。

 

 

それでは今日もおつかれさまでした。

 

 

 

 

 

 

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Suzu
Date:17th century
Geography:Miwa, Nara Prefecture, Japan
Culture:Japanese
Medium:Wood, metal
Dimensions:H. 13 1/2 × Diam. 7 1/2 in. (34.3 × 19 cm)
Classification:Idiophone-Shaken-crotal bell

https://www.metmuseum.org/art/collection/search/500655?sortBy=Relevance&ft=sound&offset=100&rpp=100&pos=200

 

 

 

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 上杉謙信の手書き文字から作った

 「けんしんフォント」無償公開中

  【ダウンロードはこちら】

        ↓
 http://mojinosuke.hatenablog.com/entry/2017/04/06/130000

 

  

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