【目次】
(冒頭の作品)
Cerveliere (Cap Worn Under Mail)
Date:15th century
Culture:possibly German
Medium:Rope
Classification:Miscellaneous
Cerveliere (Cap Worn Under Mail) | possibly German | The Met
もじのすけです。
「ふつうにコメントを書いたのに、『何でそんな読み方をするかなあ』という誤解をされて、言いたいことがちゃんと伝わらなかった。」
唐突な質問ですが、みなさんはこんな経験ありませんか? しかも最近増えていませんか?
今回は「メールの文章での誤解」というケースを例に挙げて検討してみたいと思います。
1 前回のまとめ
前回の記事では「読みにくい文字の補い方」というお話をしました。
私たちは、読みにくい文字を前にしたときに、自分が持っている知識や前提をもとに、想像力で補って読んでいます。
想像力を使って文字を読んでいるのであれば、人によってそれぞれ違った読み方をしかねないという危険もありますよね。
みなさんが文字を書く側に立ったときのことを考えると、さきほど挙げた不都合が起きそうです。
「ふつうにコメントを書いたのに、『何でそんな読み方をするかなあ』という誤解をされて、言いたいことがちゃんと伝わらなかった。」
前回の記事の「読みにくい文字の補い方」は、文字が読みにくい、という特殊なケースでした。今回は「メールの文章での誤解」というもっと一般的なケースを例に挙げて検討してみたいと思います。
今回も、「脳を創る読書」(酒井邦嘉 著 実業之日本社 2011)を参考にして、そのP126、P127に挙げられた例を使わせていただきます。
余談ですが、「脳を創る読書」(酒井邦嘉 著 実業之日本社 2011)は、積み上げて論理展開していく本ではありませんが、目からウロコの指摘がたくさんある名著だと思います。7年前の本ですが、今にも活用できる視点ばかりです。気になった方はどうぞ。
2 酒井邦嘉「脳を創る読書」P126、P127の例
それでは例を検討していきましょう。
Aさんが仕事仲間であるBさんとCさんやその他の人に向けて、次のように書いた連絡メールを一斉に送ったとします。
みなさんは読む側の立場になって考えてみてください。
例の案件ですが、次の日程で会議は可能ですか?
①11日10:00~11:00
②12日10:00~11:00
③14日10:00~11:00
本日中にご返事ください。
(註 太字化はもじのすけの加工です)
Bさんは、書かれた3つの日程のすべてで会議を行なうという意味に受け取って、「全て出席します」と返事した。
Cさんは、「3回分の会議を一度に決めるつもりだろうか? それとも、3つの選択肢の中から1つを選べという意味だろうか。メールをくれた人はいつも一言足りない人だから、きっと”次の日程のいずれか”と書くつもりで間違っただけではないか・・・」と考えて、「いずれでも可能です」と返信した。
みなさんは、どちらのように読みましたか?Aさんの性格などの背景事情を知らないとどちらが正解かは分からないですよね。どの読み方をしたらよいのかは、時と場合によることでしょうね。
その後しばらくして、またAさんから次のようなメールが届いたとする。
都合のよい人が一番多かった②の案にします。
ご出席ください。
(註 太字化はもじのすけの加工です)
このAさんからメールが来たらどんなことが判明するのでしょうか。
酒井先生は以下のように書いておられます。
Cさんは、自分の想像が正しかったことを知る。
Bさんは、それでも自分の誤読に気づかずに、「3回の会議を計画しておきながら、1回ですまそうとするのは朝令暮改でけしからん。Aさんはいつも勝手に物事を決める独善的な人だ」と怒り出してしまうかもしれない。
会議だけでしか顔を合わせない(風通しの悪い)間柄では、こうした些細な行き違いによって、誤解が誤解を生みエスカレートしやすい。
まぎらわしいAさんのメールは、Bさんとの人間関係を崩しかねない状況を引き起こしています。
3 いったい誰が悪いのか?
この例について考えてみましょう。
メールの文面を並べます。
Aさん
例の案件ですが、次の日程で会議は可能ですか?
①11日10:00~11:00
②12日10:00~11:00
③14日10:00~11:00
本日中にご返事ください。
Bさん
「全て出席します」
Cさん
「いずれでも可能です」
Aさん
都合のよい人が一番多かった②の案にします。
ご出席ください。
このメールの文章のやりとりの中で誤解が発生しました。いったい誰が悪いのでしょうか。それぞれの人について考えてみましょう。
3-1 Aさんの書き方が悪い
Aさんの書き方が悪い。
Aさんは誤解されるような文章を書いた。文字面を読めば、Aさんが3つの日程を全て提案していることになる。
①②③は選択肢の書き方として使われることもある。だけど、「次の日程で会議は可能ですか?」という質問の後に①②③と並べたら、読む方としては普通は3つとも開催すると思うのが当然だ。
遅くともBさんやCさんの返答内容を見たときには、Aさんは自分が紛らわしい文章を書いたことに気がつかないといけない。
3-2 Bさんの読み方が悪い
Bさんの読み方が悪い。
Bさんは、もう少し想像力を使うべきだった。会議の内容にもよるが、Aさんが提案している会議は、お昼前に11日、12日、14日と連続して1時間ずつ。そんなに集中して開催される会議なのかどうか、考えるべきだった。
しかもAさんは「本日中にご返事ください」と言っているのでよほど急いでいることになる、だったらなおさら集中して行う会議かどうかを想像しておく必要があった。文字面だけを過信したBさんが悪い。
3-3 放置したCさんが悪い
放置したCさんが悪い。
Aさんの連絡内容は結果的にCさんの想像どおりだった。今回のCさんは、どの日程でも出席可能だったからこそ「いずれでも可能です」と書けばすんだのであって、それは結果オーライにすぎない。
もし後からCさんの予定が変わり、①②③の全部の日程までは出席できなくなったときには、どうなったかわからない。少なくとも、Cさんとしては、Aさんの文章が誤解を生みやすい文章だと気づいたのだから、何かすべきだったのではないか。
3-4 誰が悪い?
みなさんはどう思われましたか?
なんだか道徳の授業みたいになってきましたね。
4 誰も悪くないのか?
さきほどはそれぞれの人を非難しましたが、今度はそれぞれの人になりかわって、言い訳したいと思います。
4-1 Aさんの言い分
Aさん「この書き方はしかたがない」
メールの文章を読めば、①②③の全部で開催するつもり、という雰囲気は出てこない。会議がそこまで集中するのはめったにないことでしょ。読む側が読まなさすぎ。間違いのない文章を必ず書くという人はいない。誤字脱字もそうだけれど、常に正確無比な文章を書くとなるととても気をつかってつかれてしまう。公開する文章でもなく、会議出席者という一定範囲に限ったメールの文章なのだから、多少の書き間違いは大目に見てよ。書く方の気持ちを汲んでほしいなあ。
4-2 Bさんの言い分
Bさん「書いたまま読んで何が悪い」
Aさんのメールはどこをどう読んでも、3つとも開催されると書いてあるよ。書いてあることを書いてあるとおりに読むのは間違っていない。もう少し想像力を持って読めたらよいのかもしれないけど、いちいち疑って読んでいたらつかれてしまう。想像力を持って読むのは、ルールを守った上で、より丁寧に対応するかどうかの話。そもそも伝えたいことと違う書き方をするのは最低限のルールを守っていないのだから、悪いのは間違って書いた方だ。
4-3 Cさんの言い分
Cさん「私は上手に読んだ」
Aさんのメールはたしかにわかりにくかった。でも常にそのまま読むのもやり過ぎだと思う。Aさんのことを考えれば、3つの選択肢の中から選んでほしいという気持ちはわかるんじゃないかな。え、私がAさんに、紛らわしくなっていることを注意すればよかったって?Aさんは急いでいるようだったし、そんなことをいちいち指摘してたら細かくてうるさい人に思われるし、つかれてしまう。悪いのは、紛らわしく書く人や連絡事項をニュアンスまで読み込まない人でしょ。私はちゃんと読んだのだから、何も悪くないはず。
5 結局どう考えるべきか
3人の悪いところや言い分を並べてみました。
さて、Aさん、Bさん、Cさんの中で、一番世渡り上手なのは誰でしょうか。
ぜひ考えてみてください。
私は、Cさんだと思っています。
書いているうちに長くなってしまいましたので、今回はここで止めて次回に続きを書きたいと思います。
次回は、
・Cさんがなぜ世渡り上手といえるのか
・Aさん、Bさんは世渡り上手か、その理由は
・誰もが忙しい昨今、誤解を生むメールにどう対応していけばよいのか
について、検討していきたいと思います。
おつかれさまでした。
Mail Coach #654
Manufacturer:Brewster & Co. (American, New York)
Date:1850–70
Medium:Pen and black ink, watercolor and gouache
Dimensions:sheet: 6 1/8 x 8 1/4 in. (15.6 x 21 cm)
Classification:Drawings
Brewster & Co. | Mail Coach #654 | The Met
上杉謙信の手書き文字から作った
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