【目次】
(冒頭の作品)
Chess Set
Object Name:Chess set
Date:12th century
Geography:Attributed to Iran, Nishapur
Medium:Stonepaste; molded and glazed
もじのすけです。
今回のテーマは「文字を読む順序」です。
このテーマを考えるきっかけになったのは、
息子が書いた「果たし状」です。
1 息子が書いた「果たし状」
ある晩遅く、仕事を終えて帰宅すると、寝静まって誰もいない食卓の上に、息子が書いた書状が置いてありました。
まずは、その書状をご覧ください。
息子(幼稚園年長)が姉である娘(小学3年生)に向けて書いた書状です。上の笑顔マークは姉を示しているようです。
あて名は「かしこい〇〇〇〇(姉)さま」 。差出人は「☆〇〇〇〇より♡」。
姉をほめたたえ、☆♡で穏やかな雰囲気を演出し、本文へと誘導するようですね。
この書状を開けるとこうなります。
(笑)
とにかく
まずは落ち着いて1つ1つ読んでいきましょう。
「〇〇〇(姉)やまあすたたかいだじゅんびしろ」
これが主題の1つのようです。
「やま」は不自然ですが、「様」かもしれません。最近姉弟のあいだで相撲が流行っているので、「〇〇〇山」というしこ名かもしれません。
次はこちら。
これは、長い舌のようです。あっかんべー、ということで姉を挑発しているのでしょう。
そして、最後はこちら。これが主題2なのでしょう。
「おまえ ち〇こだ」
なかなかストレートな挑発です。
再び全体像です。
後日聞いたところ、この左の大きな顔は姉ではなく差出人である息子本人なのだそうです。
いかにも幼稚園児らしい「果たし状」といえるでしょう。大人でこれを言える人は、なかなかいないでしょうね。
大人になれば、直江兼続が徳川家康を愚弄したといわれる「直江状」のように、丁寧な書きぶりでの「果たし状」も考えられることでしょう。
読む人にとっては、どっちが腹立たしいかなあ。どっちもかなあ。
2 娘の反応
翌朝、妻に、どんなシチュエーションで息子が娘に「果たし状」を渡したかを確認しました。
息子はうやうやしく片膝をついて娘に書状を手渡し、開けた娘があきれた、ということでした。
息子は以前にも同じようなことをしたそうで、娘としては「またか!」という意味で、あきれたようです。
3 もじのすけが学んだこと
私は、息子が書いた「果たし状」から2つのことを学びました。
みなさん、ここまで来ると、最初に書いた今回の記事のテーマを忘れていませんか?
「文字を読む順序」ですよ。
私が学んだ2つのことはどちらも「文字を読む順序」のことです。
1つは読む順序そのもの。つまり「書字方向」。
もう1つは読む順序によって言葉の意味が変わること。つまり「ニュアンス」です。
4 書字方向
みなさんは文字を読む順序を気にして読むことはありますか。
たとえば、このブログの文字をどのように読んでいますか。
ヨコ書きなので、おそらく左から右に読んでいますよね。もちろん私も同じです。
これを反対に読むというつむじ曲がりの人は普通はいないでしょう。
この文を「。うょしでいないは通普は人のりが曲じむつういとむ読に対反をれこ」と読む人がいたら、なかなかの思考回路の人ですよね。
「。うょしでいないは通普は人のりが曲じむつういとむ読に対反をれこ」
この文字の並びを読もうとすると、「気持ち悪い!」と思いませんか。
自分の頭の中の普段使わない部分がいじくられる感じがして。
この気持ち悪さは、例えば「利き手じゃない方の手で、おはしを使う場合のモヤモヤ感」と似ています。
「〇〇〇やまあすたたかいだじゅんびしろ」「かしこい〇〇〇〇さま」「〇〇〇〇より」
そして「おまえ」「ち〇こだ」。
私は、「ち〇こだ」のストレートさにやられてしまい、素直に受け止めきれず、一瞬だけ「だこんち」ではないか、と読み直そうとしてしまいました。
文字の読む(書く)順序のことを「書字方向」と言うそうです。
私たちは何も考えず、慣れた書字方向として、ヨコ書きの場合は左から右に読むでしょうし、タテ書きの場合は上から下に読むことでしょう。
それが反対の順序になったとたんに気持ち悪くなる。
この気持ち悪さは、私たちが、書字方向について、いかに強い固定観念で、左から右、上から下の順序で読んでいるのか、という事実のあらわれでしょう。
私が、「ち〇こだ」のときは恥ずかしくて伏せ字を使うのに、逆方向では「だこんち」と平気で書いてしまうのも、書字方向に関する私の強い固定観念のあらわれでしょう。
5 ニュアンスの違い
本当のことを言います。
実は、私が帰宅したときに食卓に置いてあった書状はこのようになっていました。
最初から開けてあったのです。私はこの書状は開いた状態の書状だと思い込んでいたのです。翌朝妻に聞き、折りたたんだ書状だったことを初めて知ったのでした。
帰宅してこの書状を発見した私の感想はこんな感じでした。
帰宅した私は、書状の左半分を目にしてまず吹きました。その次に「かしこい〇〇〇〇さま」を読みました。私の場合は、手書き文字を先に読んだということです。私の視界はこんな感じだったのです。
そして、私は、書状の「かしこい」という表現は、「おまえ ち〇こだ」とのギャップを引き立たせるための「侮辱の言葉」だと思いました。
つまり、息子が娘に「おまえは結局はち〇こだろ。かしこいとか言われているけど。いいか、『ち〇こ>かしこい』だぞ。忘れるな。」という挑発をした、と思ったのです。
ところが、もし私が、娘と同じように、最初にこの書状を閉じた状態で見て、その後に開けて読んだのなら、「かしこい」の言葉にどのような印象を受けたでしょうか。
おそらく、ここでの「かしこい」は、娘に書状を開けさせ、「おまえ ち〇こ」や「あすたたかいだじゅんびしろ」という本文への誘導目的の「だましの言葉」というニュアンスでしょう。「かしこい」のかわりに、それなりの言葉を置きかえても問題がないでしょう。
もちろん「かしこい」には「おまえ ち〇こ」とのギャップを利用した「侮辱の言葉」というニュアンスもあります。
ですが、「かしこい」は「あすたたかいだじゅんびしろ」とのギャップの「侮辱の言葉」のニュアンスをも兼ねています。ですので、前者の「侮辱の言葉」のニュアンスは弱まります。
ニュアンスの違い。これは次のような意味を示しています。
書状には同じ文字が書いてあるのに、書状が折られているか開いているかで、文字を読む順序が変わります。読む人にしてみれば、書かれた言葉のニュアンスが変わる、ということです。
このニュアンスの変化は、読ませ方を工夫できる有体物である書状だからこそ出せるのです。
また、書状の扱い方、すなわち息子がうやうやしく片膝をついて娘に書状を手渡したことにも、書かれた言葉のニュアンスを変える力があります。これも書状が手軽に扱える有体物だからこそ出せるニュアンスでしょう。
このような書状によるニュアンスの変化は、電子書籍では出せない微妙なものだと思います。地味に見えるかもしれませんが、すごいことだなあと思います。
(一応電子書籍の方の良さも指摘しておきます。マンガの特定のコマにバイブレーション機能を付けたり、コマ送りをコントロールできる点は独特です。)
6 まとめ
私は、息子が書いた「果たし状」から「文字を読む順序」について2つのことを学びました。
1つは読む順序そのもの。つまり「書字方向」。
自分がいかに強い固定観念を持っているかを知りました。
そして、もう1つは読む順序によって書いてある意味が変わること。つまり「ニュアンス」です。
有体物である書状だからこそ出せる妙味ですよね。
例えば同じ本を買うにしても、電子書籍ではなく紙の本で買うことの意味もきっとあるのでしょう。
同じ文字が書いてあっても、媒体によってニュアンスが変わる。
やっぱり文字は不思議だなあと思いました。
(心の叫び)
いい話をしたのに、「おまえ ち〇こ」に全部もっていかれるんだろうなあ。(T-T)
Single Combat in Moor-Fields or Magnamimous Paul O' challenging All O'
Artist:Thomas Rowlandson (British, London 1757–1827 London)
Date:January 30, 1801
Medium:Etching
Dimensions:Sheet (trimmed): 10 9/16 × 12 7/8 in. (26.8 × 32.7 cm)
Classification:Prints
Thomas Rowlandson | Single Combat in Moor-Fields or Magnamimous Paul O' challenging All O' | The Met
上杉謙信の手書き文字から作った
「けんしんフォント」無償公開中
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http://mojinosuke.hatenablog.com/entry/2017/04/06/130000
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