【目次】
(冒頭の作品)
Folio from the "Qur'an of `Umar Aqta"
Calligrapher:`Umar Aqta'
Object Name:Section from a non-illustrated manuscript
Date:late 14th–early 15th century (before 1405)
Geography:Attributed to present-day Uzbekistan, Samarqand
Medium:Ink, opaque watercolor, and gold on paper
`Umar Aqta' | Folio from the "Qur'an of `Umar Aqta" | The Met
もじのすけです。
今回も「文字の説明機能」について考えてみたいと思います。
(平成30年3月2日追記)
文字の説明機能②の記事が消えておりましたが、キャッシュからの復活を教えていただき、回復しました。もっとも、はてなブックマーク、コメント、はてなスターは記事から消えてしまいました。せっかく下さったみなさま、申し訳ありませんでした。
1 最初の「文字の説明機能」の記事
文字の説明機能は、ずいぶん前の記事で最初にお話ししました。
みなさんがコンビニや自販機でよく目にするミネラルウォーター。「いろはす」「サントリーの天然水」とか、ペットボトルにいろいろ書いてありますよね。
想像してみてください。このペットボトルのラベルがなくなったら、みなさんの目にはどう映るでしょうか。
私の場合は、ペットボトルの中の透明な液体が、いきなり成分不明の不審な液体に変わってしまいます。みなさんも、「ラベルが無いペットボトルの透明な液体」なんて、飲みたくなくなることでしょう。
「キャップがあるからその色やデザインで推測できるよ」という意地悪な人がいるかもしれませんね。でも、キャップから液体の種類が推測できたとして、それだけで飲めますか?キャップが一度も開いた形跡が無いとしても飲める気がしなくなってきませんか。
百歩譲って、その水がたとえば「いろはす」で、飲めるとわかったとしても気が抜けません。
「いろはす」には、「天然水」「白桃」「たっぷりれもん」「焼きりんご」「あまおう」「みかん」「なし」「りんご」「マンゴー」「7種のフルーツ」という種類があります。いっこうに可能性が狭まりません。味の好みもあるでしょうし、「飲めなくはないが、飲みたくなくなる」というのが正直なところでしょう。
さらに進んで考えてみましょう。ペットボトルのラベル表記の文字が、活字やデザインされた手書き文字ではなく、普通の手書き文字だったら、どんな印象を受けるでしょうか。飲めるのか・飲めないのか。なぜ活字と手書き文字でなぜ印象が違ってくるのか、について話をしたのが、この記事でした。
お時間のある方はどうぞ。
2 前回の文字の説明機能の記事(幻の記事)
平昌オリンピックは終わってしまいましたね。
私は、オリンピック開催中のある日、スポーツクラブに行ってランニングマシンを使っていました。マシンの前にあったテレビモニターに映っていた、平昌オリンピックの映像。最初のうちはオリンピック選手の美しい動きに感動していました。
ですが、悲しいかな、だんだん退屈になってきました。競技名を示す文字、解説音声、選手の説明の文字がないことが、気になってしまいました。
自分の教養のザンネンさを感じる一コマでした。
私が感じたのは、「オリンピック選手のプレー動作が機能的で美しかったとしても、文字の説明がないと意味を十分に理解できない」という事実でした。
そんな記事がこちらです。
間違えて、前回の記事を下書きに戻し、今回の記事を上書きしてしまいました。
キャッシュをもとに回復できましたが、ブクマ・スターは消えてしまいました。
ブクマ、スターを下さったみなさま、すみません。
3 文字の説明に適さない情報「一の谷形兜」
気を取り直して、今回の記事に突入したいと思います。
今回の記事では、どんな情報が文字による説明に適しているか、を検討してみたいと思います。
要するに「絵で説明しやすい情報は何か、文字で説明しやすい情報は何か」ということです。
まずは文字に適していない情報です。
唐突ですが、安土桃山時代の戦国武将、黒田長政の話をしたいと思います。
黒田長政は変わった形のカブトをかぶっていました。
「一の谷形兜」(いちのたにがたかぶと)といいます。
歴史はさらにさかのぼり、鎌倉時代のお話です。源義経が源氏の軍勢を引き連れ、六甲山脈の断崖を馬で駆け下り、平家軍に奇襲をかけました。
「鵯越(ひよどりごえ)の逆落とし」として有名な一戦です。
黒田長政のカブトは、この鵯越(ひよどりごえ)があった一の谷の地形を表現したものとされます。
さて、ここで問題です。
(1)みなさんは、上の説明で「一の谷形兜」がどんな形のカブトなのか、イメージできますか?
歴史好きの読者の方や過去の記事を読まれた方は、イメージできてしまうかもしれませんね。そんな方には、応用問題です。
(2)黒田長政がこのカブトをかぶったときの姿を描いた絵をイメージできますか?その絵の黒田長政は、結構気弱そうな感じで、何ともいえない嫌そうな表情をしているのですが、その表情をイメージできますか?こちらも過去の記事で紹介しました。
さあ、想像してみてください。知っている人は思い出してください。
正解はこんな感じです。
(1)の正解 「一の谷形兜」
(福岡市博物館蔵)
味付けのりを曲げたような感じですね。
次に(2)の正解です。
しかしまあ、ほんとに嫌そうな顔をしていますね。
どうでしたか?
「イメージとぴったり合ったぞ!」という人は歴史マニアといってよいと思います。実際には、ほとんどいないと思います。
それでは、さらに逆の場合を考えてみて下さい。
この「一の谷形兜」の正確な形と「黒田長政」の気弱そうで何ともいえない表情。
これらを、何も知らない人に説明するとしましょう。
ぴったりイメージしてもらうために、みなさんが文字で説明するとしたら、どうしたらよいでしょうか。
ちなみに私はお手上げです。無理です。
その他にも、黒田長政が乗っている騎馬の色や模様は文字で説明しきれません。
まさに「百聞は一見にしかず」です。
絵の方が分かりやすい!
このことから、
視覚的な情報は文字の説明に適さない
ということがわかります。
4 文字の説明に適した情報「黒田長政像」
それでは、次に文字の説明に適した情報についてお話ししましょう。
それにしても嫌そうな顔(笑)。
なんでこんなに不機嫌そうな顔をしているのでしょうか。
実は私は理由を知らないのです。上の文章も読んだことがありません。
以前にもお話ししましたが、頭上の文字が多すぎて重たすぎるからだと想像しています。
というのは冗談で、真面目に予想すると、上の文章が黒田長政がどんな心境なのか? なぜ騎馬に乗って「一の谷形兜」をかぶって進んでいるのか? そのあたりの事情の説明が書いてありそうです。
そのあたりの事情とは何か、を分析していくと、
・目には見えない抽象的な概念(行軍の目的など)
・目には見えない思考(不機嫌になった理由など)
になりそうです。
考えてみて下さい。そもそもみなさんは、どうしてこの肖像画の人物が黒田長政だとわかるのでしょうか。
それは、私が肖像画の画像の下に「黒田長政騎馬像(福岡市博物館蔵) Wikipediaより」と文字を書いたからですよね。
人の名前も、実は目には見えない抽象的な概念なのです。
結局のところ、視覚的にとらえられない情報(抽象的な概念、人の思考・感想)は、文字の説明に適しています。
視覚的にとらえられない情報といえば他には、味覚、触覚、嗅覚、聴覚に属する感覚があります。これらは、絵や動作では表現できず、文字での説明に適しています。
本当は文字での説明も不十分ですが、他の人に伝えるには文字でしか説明できません。
もちろん、例外もあります。視覚的ではない抽象的な概念であっても、正確なイメージ伝達が求められていない場合や、その概念に属する例を挙げてイメージしてもらうときには、絵(画像)で説明することがあります。
たとえば兜といったときに、これを挙げるようなときです。
(再掲)
また、思考もある程度は表情で表すことはできます。名優と言われている人は、その細やかさが素晴らしいのだと思います。ただ、小説の映画化をしたとき、どんな名優の表情も、正確性の点では思考や感想を説明する文字には劣ると言わざるを得ないです。(正確性よりも余白・余韻があることこそが素晴らしいとも言えますが。)
例示という一部の例外はありますが、視覚的にとらえられない情報(抽象的な概念、人の思考、味覚・触覚・嗅覚・聴覚上の情報)は、文字の説明に適しています。
5 まとめ
これまでの検討からは、
①文字の説明機能に適した情報は、視覚的な情報
②文字の説明機能に適さない情報は、視覚的でない情報
ということがわかりました。
特に自分にとって驚きだったのは、「感情」と「思考」の違いです。
よく「感情」と「思考」は似たもののように思われがちですよね。私も、この記事を書くまでは、冷静かどうか程度の違いだと思っていました。
ですが、全然違いそうです。
「感情」は表情(押し殺す人でもどこか顔に出る)とセットになっているので、①視覚的な情報です。これには文字以外の説明が適しています。
これに対し、「思考」は概念の組み合わせや論理なので、②視覚的にとらえられない情報となります。これには文字の説明が適しています。
ただし「思考」が「感情」と混じり合うことはあります。そんなときは、非視覚情報である「思考」を文字で表現し、視覚情報の「感情」を文字以外で表現して、混ぜるのがよいのでしょう。
その意味で、文字と絵を混ぜた「マンガ」や「黒田長政の肖像画」は、「思考」と「感情」が混ざった場合に適した表現方法なのかもしれませんね。
それではまたお会いしましょう!
Calligrapher:Ahmad ibn al-Suhrawardi al-Bakri (d. 1320–21)
Illuminator:Muhammad ibn Aibak ibn 'Abdallah
Object Name:Folio from a non-illustrated manuscript
Date:dated A.H. 707/ A.D. 1307–8
Geography:Attributed to Iraq, Baghdad
Medium:Ink, opaque watercolor, and gold on paper
上杉謙信の手書き文字から作った
「けんしんフォント」無償公開中
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http://mojinosuke.hatenablog.com/entry/2017/04/06/130000
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