【目次】
(冒頭の作品)
Writing board
Period:Middle Kingdom
Dynasty:Dynasty 12
Date:ca. 1981–1802 B.C.
Geography:From Egypt; Said to be from Upper Egypt, Thebes or Northern Upper Egypt, Akhmim (Khemmis, Panopolis)
Medium:Wood, gesso, paint
Dimensions:L. 43 cm (16 15/16 in); w. 19 cm (7 1/2 in)
もじのすけです。
今日は、1文字違いが大違い、という話の第1弾として、「字が読めるか・読めないか」の話をしたいと思います。
1 できる?できない?奇跡の技術
突然ですが、下の文字を見てください。
私の字です。
さて何と書いてあるでしょうか。
る。でしょうか?
ない でしょうか?
どっちでしょうか。
実は、答えは書いた私にも分からないのです。
なんでそんなことになるのか。
順を追って、お話ししていきましょう。
このナゾの2文字(?)は、私がかつて見た文字を
必死で再現したものなのです。
私がこの2文字(?)の形を見たのは、
ある記述式のテストの答案の解答でした。
何百字の論理展開があった最後に、
「・・・できる。」
「・・・できない。」
という結論が下されるものでした。
ところが、
時間が無くて大急ぎで書いた人がいたらしく、
小さめの字で、さらさらと書いた結果
最後の結論部分に
でき
がきてしまったのです。
私はこの解答が公表されたとき、
戸惑い、そして
とてもイライラしてしまいました。
結局この解答は
「できる。」のか!
「できない」のか!
分からない・・・。
見れば見るほど、どちらにも読める・・・。
みなさんもご存知のとおり、
日本語の文章は最後が一番大事です。
「だ」「でない」のどちらなのか。
肯定文なのか。否定文なのか。
文章の最後の数文字でようやく分かります。
この
でき は
「最後の1文字?2文字?というか
正確には最後の数画が曖昧で
文章の結論がどっちか分からない。」
という、私にとって衝撃の文字でした。
ちなみに前の文章の論理から見ても
どっちなのかは分かりませんでした。
その結果、私にとって
は
奇跡の2文字となりました。
私は、自分が発見した
奇跡の を
このブログで再現するために
どれだけ書いたことか。。。
悪戦苦闘ぶりをご覧下さい。
ちなみに、
下に波線が引いてあるものは、
区別がつかない候補です。
みなさんが目にされたのは
その中から選び抜かれた
です。
みなさんも、良かったら使ってみませんか?
テストに使えるかもしれませんよ。
テストで時間が無ければ、
究極のごまかしテクニックとして
乗り切れるかもしれませんよ。
何せ結論がどっちにも読めるのですから!
でも
「できる。」「できない」の
どちらとも読めない と思われて、
バツにされても知りませんが・・・。
2 読みにくい字を書くとどうなるか
それでは、あらためて考えてみましょう。
読みにくい字を書くとどうなるのでしょうか。
まず読み手が困ります。
手書き文字が読みにくいためにイライラ指数はマックスになりますから。
それだけならまだよいのですが、書き手本人も困ります。
このの原型の文字ですが、実は書いたのは知人です。
もう20年近く経っているのですが、私は知人が書いたことまでしっかり覚えています。ですが「書いた知人」はきっと忘れていることでしょう。
そして書いた知人は、急いで書いたとはいえ、自分の字でさらさらと書き、読み手に伝えたつもりになっていると思います。でも読む方は読めない。
この状態は悲劇です。
特にテストになると致命傷になりかねません。
2-1 採点者の立場から
私は記述式のテストの採点係をしたことがあります。
読みやすい字だと印象が変わってきます。受験生・社会人の方は、よく耳に入る話だと思いますが、本当にそのとおりなので、ぜひ心に留めておいてください。
テストの解答が読みやすい字で書かれていると、論理が飛んでいても気がつかずに読み流してしまうことがありました(そうならないようになるべく気をつけてはいましたが)。
他方で、テストの解答が読みにくい字だと、採点者としては、1文字1文字じっくり読んでしまいます。そして期せずして論理までじっくり読み込みます。そんなことをしているうちに、ケチをつけるポイントをどんどん見つけ出してしまうことがよくありました。
2-2 採点者の立場から2
もう一つのエピソードをご紹介しましょう。
私が大学のゼミに出席していたある日のこと、ゼミの先生が、雑談の中でこんなことを言いました。
(先生)「私はこれまでテストで何千、何万通も採点をしてきた。だが、読めない字はほとんどなかった。何とかして読んだし、読めた。」
(学生)「先生、『ほとんどなかった』ということは、読めないものがあったのですか。」
(先生)「それはあった。アレは本当にひどかった。最初から最後まで全く何が書いてあるのか分からない。書いてある内容が分からないんじゃない。そうじゃない。そもそも読めないんだ。文字が汚すぎた。どれだけがんばっても読めなかった。」
(学生)「先生ががんばっても読めない解答があったのですね。じゃあ、その解答はどうなったのですか?」
(先生はふうっと深い息を吐き、遠い目をしました。)
(先生)「読めんものはしかたないだろう。」
2-3 他人も困るが本人も困る
考えてみてください。
もったいないと思いませんか。
テストでせっかく一生懸命文字を書いたのに、伝わらない。
場合によってはそもそも読んでもらえない。
仕事の指示も同じです。
わかりにくい指示もありますが、
そもそも指示の文字が汚いことがあります。
自分に向けて書いているのであれば、
自分が分かりさえすればよいので、
汚くても良いでしょう。(例:日記の文字)
その藤原道長が書いた自筆の日記があります。
御堂関白記です。
御堂関白記は国宝になっていますが、
書き込まれた道長の手書き文字自体は、
とてもきれいな字とは言えません。
御堂関白記が表紙に映っている本はこちら。
(本の表紙を見ると筆跡が分かります。)
日記は基本的に自分に向けて書くので、
きたない字であっても良いでしょう。
3 読める字を書こう!
読める字を書きましょう。
テストでせっかくがんばって書いたのだったら、点を失わないようにしたいですね。
昔の戸籍を見ると、読めなくて何が書いてあるのか分からないことがあります。
汚くて読めないこともありますが、達筆すぎて読めないこともあります。字の上手下手と読めるか読めないかは微妙に違うのかもしれません。
そうやって考えると、仕事でも「読める字を書く」ということは、字を「上手に書く」のではなく、「丁寧に書く」ことなのだと痛感します。
お医者さんの診断書を見ると、今でもとても読めない字で書いてあったりします。
電子カルテがあり、ずいぶん見やすくなりましたが、忙しいからでしょうか。まだまだ診断書が見にくいことがあります。診断書はお医者さんだけが見るものではありません。そうすると、書き手のお医者さんとしては、いま自分が書いている文字は他の人にも見られるのですから、丁寧に書くよう気をつけておく必要があります。
ちなみにこの文字ブログの記事ではいつも、最初に「こんにちは」、最後に「こんかいはここまて」と書いています。
この2つのコメントの手書き文字には、上杉謙信の直筆の画像で作成した「けんしんフォント」を使っています。
「けんしんフォント」のほぼ全ての手書き文字は、上杉謙信が甥の上杉景勝(当時はこども)に向けて書いたものです。なので、とても美しい上に、甥への愛情を込めて丁寧に書かれています。
TPOによるのでしょうけれど、私たちが自分の書いた字を他の人に見てもらうときには、丁寧に字を書いた方がよいと思います。
けっきょく
奇跡の文字を使うより、読める文字を書きましょう
= 丁寧に文字を書きましょう
という極めて穏当な結論になりました。
今日はここまで。
明/清 陳洪綬 橅古圖 冊
Miscellaneous Studies
Artist:Chen Hongshou (Chinese, 1598–1652)
Period:Ming dynasty (1368–1644)
Date:one leaf dated 1619
Culture:China
Medium:Album of twelve paintings; ink on paper
Dimensions:Image (each leaf): 7 x 7 in. (17.8 x 17.8 cm)
Classification:Paintings
上杉謙信の手書き文字から作った
「けんしんフォント」無償公開中
【ダウンロードはこちら】
↓
http://mojinosuke.hatenablog.com/entry/2017/04/06/130000
定期的に読んでいただけると嬉しいです。
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