【目次】
(冒頭の作品)
Saint-Guilhem Cloister
Date:late 12th–early 13th century
Culture:French
Medium:Limestone
Dimensions:30 ft. 2 in. × 23 ft. 10 in. (919.5 × 726.4 cm)
Classification:Sculpture-Architectural-Stone
Saint-Guilhem Cloister | French | The Met
もじのすけです。
1 今回も文字の機能を検討します
2020年の大河ドラマのテーマが「明智光秀」になったようですね。このブログでは以前、明智光秀と天海僧正の筆跡を比較して同一人物かどうかを検討していました。最近、その記事の閲覧数がコンスタントに伸びています。
この記事です。
それにしてもNHKの影響力はすごいですね。
次にみなさんに筆跡をご紹介しようと思う有名人は決めているので、今回は閲覧の勢いにのって歴史ものにしようか、どうしようか、と迷いました。
考えた末、「やっぱり自分のブログでは自分の書きたいものを書きたい!」という結論に至りました。あいかわらず気まぐれなテーマ設定で続けさせてもらおうと思います。
ということで、今回の記事でも、私が書きたいテーマである「文字の機能」について考えていきましょう。
2 通常の用法という先入観
以前の記事では、有名な科学者である「ニュートン」と「ライプニッツ」の名前の表記を変えて、文字から受けるニュアンスの違いを検討しました。
(ちなみに2人の画像は以下のWikipediaから引用しました。)
普通の表記はこうですよね。
それをこう変えると、どうなるでしょうか。
にゅーとん らいぷにっつ
どうでしょうか。急に2人の印象が変わりますよね。ちょっと庶民的になるというか、親しみがわいてきます。
ですが考えてみてください。
中高生が歴史のテストで「にゅーとん」「らいぷにっつ」と書いたらどうなるでしょうか。・・・おそらくバツになることでしょう。
大人が公の資料で「にゅーとん」「らいぷにっつ」と書いたらどうなるでしょうか。・・・おそらく、特殊な状況でない限り、偉大な先人への敬意が足りないということで、非難されることでしょう。
このように私たちは、「ニュートン」と「ライプニッツ」の名前をひらがなで書くことに、根本的な違和感(抵抗感)をもっています。以前の記事では、その違和感が生じる原因について検討しました。
その記事はこちらです。
その記事では2つの原因を挙げました。その中の1つの理由として、私たちの中にある「通常の用法という先入観」を紹介しました。
私たちは、外国人の名前には、アルファベットか「カタカナ」を使うことを通常の用法としています。「カタカナ」であるはずの外国人の名前に「ひらがな」を使うと、私たちは違和感を感じます。その違和感が発生するのは、私たちが「通常の用法から外れている!」と感じるからだと思います。
普段私たちが文章を読むときは、「ここは『ひらがな』、ここは『カタカナ』」と通常の用法を予測しながら読んでいます。この予測が外れると急に違和感をいだき、特別な意味があるのではないかと疑います。
ソウデショウ?
その他にも「ヒラガナ」と「かたかな」と書くと違和感が出てきませんか?
この「にゅーとん」「らいぷにっつ」の表現は、酒井邦嘉先生の本の96、97ページに出てきます。
今回は酒井先生の「脳を創る読書」の別の例を見ていきましょう。
私たちが文字を読むときに、いかに先入観(想像力)をもって読んでいるのか、をもう少し深めて検討したいと思います。
3 1つめの例
まずはこの画像を見て下さい。
出典は「脳を創る読書」(酒井邦嘉 著 実業之日本社 2011)93ページです。
みなさんは、どのように読みましたか?
多くの人は「THE CAT」(猫)と読んだのではないでしょうか。
すでにお気づきでしょう。「A」にしては上が空いていて、「H」にしては縦線が斜めになっている不思議な形のものが2回出てきています。
これを文字として補うならば、理論上は、「TAE CAT」「TAE CHT」「THE CHT」「THE CAT」の4パターンがありえます。
でもよく見て下さい。
「T〇E」と「C〇T」の「〇」の部分は同じ文字です。
「THE CAT」と読んだ多くの人は、あるときは「H」と読み、「A」と読み込んでいます。同じ文字なのに・・・。どうしてそのように読んだのでしょうか。
「T〇E」の「〇」を「H」と読んだのは、「THE」という文字の並びに慣れているからでしょう。または「THE CAT」という文字の並びに慣れているからでしょう。
「C〇T」の「〇」を「A」と読んだのは、「CAT」という文字の並びに慣れているからでしょう。または「THE CAT」という文字の並びに慣れているからでしょう。
が「A」でも「H」でもない、単なる記号の可能性すらあります。ですが、単なる記号にとどまらない「文字」として読み、しかも「A」「H」と使い分けて読んでしまうのはなぜでしょうか。
私たちは、文字を読む中で違和感を感じる部分を見つけても、「通常の用法という先入観」「想像力」で補って読み込んでいるのです。
4 2つめの例
次にこの画像を見て下さい。
出典は「脳を創る読書」(酒井邦嘉 著 実業之日本社 2011)94ページです。
これはどのように読めるでしょうか。
続いてこちらはどうでしょうか。
酒井先生の本の同じページからの引用です。
今回は「わ」とも「れ」とも区別がつかない、微妙な文字が問題になっています。
理論上は、「だわのゆびわ?」「だわのゆびれ?」「だれのゆびれ?」「だれのゆびわ?」の4つが考えられます。
みなさんは、その4つの可能性のうち、「だれのゆびわ?」と読まれたのではないでしょうか。
みなさんがこれらを「だれのゆびわ?」と読むとき、「だれ」「ゆびわ」という一定の文字の並びを「通常の用法という先入観」「想像力」で補って読んでいるのでしょう。
実はもじのすけの場合は、もう少し特殊な事情があります。
もじのすけの高校時代に、ある国語の先生がおられました。その先生は、ことあるごとに「・・・だわ。」と言う口癖のある人で、生徒からは「『だわ』原人」とか、「だわ」というあだ名で呼ばれていました。
そんな先生がおられたので、もじのすけには今回のお題が「だわのゆびわ?」とも読め、個人的にはとても混乱しました。
「だれのゆびわ?」と読むだけでなく「だわのゆびわ?」と読んだうえで、懐かしい国語の先生とそのしっかりとした太い指(結婚指輪をされていました)、「原人」とあだ名されるほどのがっしりした手元を思い出していました。
もじのすけの場合は、「だれ」「だわ」「ゆびわ」という一定の文字の並びを「通常の用法という先入観」「想像力」で補って読んでいるということになります。
5 今回のまとめ
今回は、2つの例を検討しました。
私たちが「先入観・想像力で補いながら文字を読んでいる」ことがわかっていただけたかと思います。
酒井先生は「文字の並び(言葉)」の補い方の例として、2つの例を挙げておられました。
もじのすけとしては、自分が、「文字の並び」を使うだけでなく、個人的な経験(高校の国語の「だわ」先生)も使って、読み方を補っていたことに衝撃を受けました。
私が受けた衝撃をもう少し具体的に言うと、「同じ文字の並び(言葉)を目にしていても、読む人の経験・前提によって補い方が変わる」ということ です。
文字の並び(文章)を補う作業は、読む人の脳内で行われています。その補い方がどうなっているのかは、読む人以外の人にはわかりません。しかも、その補う作業は無意識で行われ、読んでいる本人でさえもほとんど覚えていません。
つまり、文字の並びの補い方の違いは、音読でもしない限り、本人にも誰にも全くわかりません。
みなさんは日々の生活の中で、メールやSNSを書き、同じ文章でやりとりをしているはずなのに、「なんでこんな読まれ方をするのだろう」と疑問に思うことがありませんか。
おそらく、文字の読むときの「通常の用法という先入観」「想像力」が人によって違う、というところからきているのでしょう。
今回は、「読みにくい文字の補い方」というやや特殊なケースを検討して、文字と想像力の関係についてお話ししました。
次回は、特殊なケースではなく、あるある事例としてメールのコミュニケーションのトラブルを例に挙げていきます。酒井先生のご著書の別の例です。
同じ文字の並び(文章)を読んだ時の補い方についてトラブルが起きる原因がわかればいいですね。より誤解のない文章が書けるようになるかもしれませんね。
6 おまけ
記事を書いていたら、横に座っている上の娘(小4)が、想像力で補う文字遊びを見せてくれました。
隠した状態
外した状態(間にいろいろ書いてあります)
本日はここまでとします。
それでは次回またお会いしましょう。
Nose Ornament
Date:1st–7th century
Geography:Colombia
Culture:Calima (Yotoco)
Medium:Gold
Dimensions:H. 5 5/16 in. (13.5 cm)
Classification:Metal-Ornaments
Nose Ornament | Calima (Yotoco) | The Met
上杉謙信の手書き文字から作った
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