もじのすけ の文字ブログ

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文字について考えたことをつづっています

文字を「作る」方法 ~文字の出現性~

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【目次】

 

 

(冒頭の作品)

Jaguar Whistling Jar
Period:Pre-Columbian
Date:ca. 500–900
Geography:Peru
Culture:Moche
Medium:Ceramic, polychrome
Dimensions:11.1 x 7.6 x 15.2 cm (H. 4-3/8 x W. 3 x L. 6 in.)
Classification:Aerophone-Blow Hole-vessel flute

Jaguar Whistling Jar | Moche | Pre-Columbian | The Met

 

 

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もじのすけです。


今回は文字を「作る」方法についてお話ししたいと思います。
先に警告(!?)しておきます。 今回は堅めの記事です。

 

 

 

1 文字を「形作る」

 

昨年末、子どもたちが私に示してくれた文字の作成方法の記事があります。それがこちらです。

 

mojinosuke.hatenablog.com

 

子どもたちは、カプラブロックという小さな木の板を使って、もじのすけにメッセージを残してくれました。子どもたちは、文字は「書く」「打つ」の他に「作る」ことができる、ということを私に教えてくれました。

 

「お父さんしごとがんばってね」

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この記事で示した、文字を「作る」という作業は、正確には、文字を「形作る」という作業です。もっと具体的に言うと、文字を「何らかの素材で」「形作る」という作業です。


子どもたちが文字を「形作った」素材は、カプラブロックという木片でした。
ですが文字を形作る素材はモノに限りません。他にもあります。

 

例えば、高校野球のアルプススタンドの応援で人が文字を作ることがありますよね。また、小学校や中学校の校庭に生徒が集まって文字を形作ることがありますよね。いわゆる「人文字」です。「人文字」の場合は、「人」が素材になって文字を「形作る」ケースです。


そのほかに独創的な方法もあります。以前このブログでご紹介した芸術家、荒井美波氏の作品です。針金を使って文豪たちの手書き文字の文章を表現しています。

 

荒井美波氏のホームページと、2018年2月8日~15日開催の展覧会の予定はこちら。

荒井 美波 | Minami Arai

hanatsubaki.shiseidogroup.jp

 

荒井氏のサイトをご紹介した記事はこちら。

手書き文字と活字の違い(14) ~活字が表す情報③~ - もじのすけ の文字ブログ

 

荒井氏の作品は「針金」という素材で文字(と文字に宿っている何か)を「形作る」ケースといえるでしょう 。

 

 

 

2 文字を「書く」

 

もう少し考えてみましょう。そもそも文字を「書く」という作業には、どんな作業が含まれるでしょうか。


文字を「書く」という作業は、自分の身体を使って文字の線を描く、という作業です。わかりやすいのは、紙に文字の線を描く場合でしょう。鉛筆、シャーペン、万年筆、筆など、道具は問いません。その他にも、地面や岩や粘土板などに文字の線を刻む場合も含まれます。


応用問題です。自分の身体を使って文字の線を描くのが文字を「書く」のだとすると、文字を「書く」のは、はたして「人」に限られるのでしょうか。チンパンジーはどうでしょうか、AI(人工知能はどうでしょうか?

ここでは問いの投げかけだけにしておきます。

私はこれらの問題を「文字の主体性」の問題と名づけ、こちらの記事で検討しています。お時間のある方はこちらもどうぞ。(ちなみに今回の記事のネタバレも入っています)

手書き文字と活字の違い(17) ~文字の客体性 活字の主体は誰か?~ - もじのすけ の文字ブログ

 

 

 

 


3 文字を「打つ」

 

 

次に、文字を「打つ」という作業について考えてみましょう。どんな作業が含まれるでしょうか。みなさんも考えてみてください。


一番わかりやすいのは、キーボードのキーを打って文字を紙やモニターの画面上に出現させる作業でしょう。いわゆるタイプライターやワープロの話です。


その他にも文字を「打つ」作業はあります。例えば文字の入ったハンコなどを紙に押しつけて文字を出現させる場合です。いわゆる押印や印刷や刻印の場合です。

 

例:尼崎彫刻工業さんの刻印作業動画

www.youtube.com

www.youtube.com

 

(余談ですが、尼崎彫刻工業さんの動画は、いろんな方法の打刻の様子が示されていて、けっこう気持ちいいです。)

 


こうしてみると、わたしたちが文字を「打つ」と呼ぶ作業の中には、「キーボードのキーを打つ」という「入力動作」を示す場合があります。また、ハンコを押しつけた場合のように、紙やモニターの画面上に文字全体が筆順にかかわりなく突然現れる、という「入力結果」を指す場合もあります。

2つの概念の関係性を考え出すとなかなか深い問題になりますが、今回はこのあたりで思考を止めておきます。

 

 

 


4 文字を「作る」~文字の出現性~

 

よく考えてみると、文字を「書く」「打つ」「形作る」という作業も、結局は文字を「作る」作業に含まれます。文字を「作る」ということは、文字が「無い」状態から文字が「有る」という状態に変える作業です。

私は、このことを「文字の出現性」と名づけています。


脳の中や紙やモノへの「文字の出現性」を解説した記事はこちらです。お時間のある方はこちらもどうぞ。

【50記事目】手書き文字と活字の違い(15) ~文字の出現性~ - もじのすけ の文字ブログ


今までの話をまとめるとこんな感じになります。


文字を「作る」(文字の出現性)

 = 文字を書く・打つ・形作る

 

 

 


5 「書く・打つ・形作る」以外の方法

 

ここでみなさんに考えていただきたいことがあります。


文字を「作る」方法は、文字を「書く」「打つ」「形作る」の3つで全てでしょうか。他に文字を「作る」方法はないのでしょうか。


人によっては「打つ」に分類するかもしれませんが、実は、文字を作る方法はまだあります。その方法とはなんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは 音声入力 です。


文字を「作る」方法として、「書く」「打つ」「形作る」の他に「話す」があるのです。

 

ただ「文字を話す」という言い方は正直しっくりこない。これはやっかいです。

 

もともと「文字を書く・打つ・形作る」の「を」は、①動作・作用の対象を示す「を」(例:本を読む)ではなく、②動作・作用が働いた結果を示す「を」(例:湯を沸かす)です。その意味では「文字」「を」「話す」は間違っていないはずです。


ですが、「文字を話す」という言い方をすると、ニュアンスとしては①(例:本を読む)に近くなり、「話す」動作や「朗読する」動作になってしまいます。これでは表現として変です。

 

ここで私はしばらく悩みました。

 

悩んだ末に、

「文字を吹き込む」という表現を考え出しました。

 

微妙な表現ですが、これでいこうと思います。もっとよい表現方法があったらぜひ教えてください!

 

       「ご指摘、まってます。」

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わかりやすい文章を作成する秘訣として、よく「語りかけるように書け」と言われることがありますよね。音声入力によって文字を「吹き込む」作業は、この「語りかけるように書け」という秘訣をそのまま実現する方法です。

文字を「吹き込む」作業は「書く」「打つ」「形作る」とは違います。 


まず、文字を「吹き込む」作業は文字を「書く」作業とは違います。

自分の声(のどと口)を使っているので、自分の身体を使っていますが、文字の線を描くわけではありません。

 

 

次に、文字を「吹き込む」作業は文字を「打つ」作業とも違います。

入力結果に重点を置くと、 文字の筆順にかかわらずモニター画面に文字を突然出現させてはいます。その入力結果の様子を見れば、文字を「吹き込む」作業を文字を「打つ」作業に分類する人もいることでしょう。

ですが、私としては入力動作に注目したいです。

文字を「吹き込む」作業では、モニター画面に文字が現れますが、ハンコなどで文字を紙に印字する場合とは違って「媒体に押しつけて出来上がり!」という感じはありません。手や指やキーボードを全く使わない状態で文字を出現させています。

したがって、私の考え方からは、文字を「吹き込む」作業は文字を「打つ」作業ではない、となります。

 

 

さらに、文字を「吹き込む」作業は文字を「形作る」作業とも違います。

文字を「吹き込む」作業は声を出すだけであって、素材を集めてそれを文字の形に並べる、という作業とは無縁ですから。

 

 


ややこしい言い方をしましたが、要するに、文字を「吹き込む」 方法は「書く」「打つ」「形作る」とは別の、文字を「作る」第4の方法だと言いたかったのです。

 

これをまとめると

文字を「作る」

= 文字を書く・打つ・形作る・吹き込む

となります。

 

 


6 実はこの記事は・・・


気づいた方はおられますか? 実は、みなさんがここまで読んできた今回の記事は、Google 音声入力で作りました。まあ半分くらいですけど。

 

グーグルドキュメントに文字を吹き込んで文章を作り、その文章をコピペして・・・。吹き込むだけではなく、キーボードで句読点を打ったり、文章を補充したりしています。その上で、キーボードで何度も修正をしています。

 

どうでしょうか。今まで読んでこられたもじのすけの文章と比べて、不自然な感じがありますでしょうか。

 

「もし吹き込みの部分がいつもと違う!」と感じた方がいらっしゃれば、感覚の鋭い方だと思います。今後の検討のために、吹き込んだ部分とそのように感じた理由をぜひ教えて下さい。

 

今回のテーマは、文字を作る第4の方法 

「文字を吹き込む」でした。

 

この方法の意味や感想については、別の記事でもう少し深めて検討してみたいと思います。
 

堅い記事にお付き合いくださり、ありがとうございました。

 

 

 

      (吹いたらいい音出るかな?) 

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Xun(シュン 気鳴楽器)
Date:206 B.C.–220 A.D.
Geography:China
Culture:Chinese
Medium:Pottery
Dimensions:Overall: W. 7.1 x D. 4.8 x L. 10.5cm (2 13/16 x 1 7/8 x 4 1/8in.)
Classification:Aerophone-Blow Hole-vessel flute 

Xun | Chinese | The Met

 

 

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 上杉謙信の手書き文字から作った

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 http://mojinosuke.hatenablog.com/entry/2017/04/06/130000

 

  

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